日本のインバウンドが絶好調です。2024年の来日外国人観光客数は約3,687万人と過去最高で、北海道も283万人と過去2番目の数とのことです。
北海道の魅力は、何と言っても美味しい食べ物と美しい風景ですが、広い北海道に点在する観光スポットを繋ぎ、観光旅行を支えているのが道路ネットワークです。近年その中心となる高規格幹線道路の整備が進んだこともインバウンド観光の盛り上がりの一因と思われますが、計画に対する進捗率(2024年度末)は、全国平均87%に対して、北海道は67%と立ち遅れています。
とは言え、北海道は、山あり谷あり、海あり湖あり渓流あり、牧場あり田園あり、と様々な美しい風景をまとめて楽しめるという世界的にも稀有な場所と言えそうです。
例えば、雄大な風景という点では、北米のカナディアンロッキーや大平原は、私は経験がありませんが、あまりにもスケールが大き過ぎて、車で走れど走れど風景は変わらず、飽きてしまうという話も聞きます。
北海道なら4,5泊もすれば、主な見所をぐるっと周遊できるので、そのコンパクトさは忙しい現代人にとっては大きな魅力です。
そして、そんな北海道のポテンシャルを活かす「シーニックバイウェイ北海道」というプロジェクトも進んでいます。“シーニックバイウェイ”とは、景観(Scene)の形容詞シ―ニック(Scenic)と脇道・寄り道を意味するバイウェイ(Byway)を組み合わせた言葉で、地域と行政が連携し、景観や自然環境に配慮し、地域の魅力を道でつなぎながら個性的な地域、美しい環境づくりを目指そうという施策です。その元祖は米国なのですが、日本では国土交通省北海道開発局がその先鞭をつけ、全国ベースの「日本風景街道(Scenic Byway Japan)」(国土交通省)へと発展しています。
また、快適なドライブをサポートするその土地ならでは魅力を売りにした「道の駅」も要所要所に作られてきました。

地域主導の「シーニックバイウェイ北海道」プロジェクト
ところで、日本の伝統的な自然回遊式庭園には、「縮景」、つまり「風景を縮める」という独特の庭園技法があります。これは、庭園の各所に日本各地や中国の名所の風景のミニチュアを池や築山、橋、石組みで模すという技法で、庭園を歩いて回ると、中々経験できない全国の名所巡りを疑似体験できるという仕掛けです。
この代表的な庭園は、江戸時代初期に水戸藩初代藩主・徳川頼房が江戸の中屋敷に造った小石川後楽園で、京都の大堰川や渡月橋、琵琶湖の竹生島、富士山麓の白糸の滝などの当時の名所の縮景が楽しめます。ちなみに「後楽園」の名前の由来は、「「天下の憂いに先だって憂い、天下の楽しみに遅れて楽しむ」という上に立つ者を諭した中国の教えによるとのこと。
北海道は、さながら自然回遊式庭園に例えられるかもしれません。スケールは5桁程も違い、かたや歩き、かたや車という違いはありますが、様々な風景を次々とまとめて楽しめるという点では同じです。庭園の見所スポットには東屋やベンチが置かれ、ゆっくり眺めを楽しめますが、北海道の観光スポットでもハイクオリティのホテル・旅館や飲食施設が充実してきました。
回遊式庭園を歩くと、道を曲がり坂を上り下りという道行き、次々と風景が変わり、空間が閉じたり解放されたりと様々な空間体験を楽しめます。
北海道周遊の観光ルートもこんなストーリー性のある体験を演出できたら面白いのでは、と妄想を膨らませる、今日この頃です。
2025年10月第1号
(文責:小町谷信彦)