道の話題 11「道路の設計にもお国柄」

道路の設計にもお国柄

今年の日本列島は立て続けの大雨、台風と災害のオンパレードでしたが、災害の比較的少ない北海道でも北海道胆振東部地震は多くの被災者を出すとともに全道停電という前代未聞の事態を引き起こしました。もしかすると、地球温暖化の影響もこれあり、この異常気象、天変地異を異常ではなく普通と想定した危機管理が必要な時代になってしまったのかもしれません。
実際、東日本大震災後、国土のリダンダンシー(冗長性)、すなわち「災害によって一部の区間の途絶や施設の破壊が全体の機能不全に繋がらないように、あらかじめ交通ネットワークやライフライン施設を多重化したり、予備の手段を用意すること」の必要性が明確になり、リダンダンシーの強化、いわゆる国土強靭化が進められていますが、今回の台風21号による関西国際空港の被災、全面閉鎖は空路のリダンダンシーを改めて浮き彫りにしたと言えそうです。

さて、皆さんハイウェイストリップという言葉を耳にしたことはあるでしょうか?
戦争などの緊急事態に敵により軍の空港が破壊された時に、代替滑走路として軍用機の離着陸に使用する高速道路の滑走路のことで、いわば戦時のリダンダンシーと言えるかもしれません。
このハイウェイストリップ、スウェーデン、ポーランドといった欧州はもとより、中国、韓国、北朝鮮、レバノン等々、洋の東西を問わず多くの緊迫した地勢状況下の国々で整備されています。
代表的なのは、ドイツのアウトバーン。ヒットラーが軍事目的で造ったこの高速道路網には、緊急時には滑走路や駐機場としての使用を想定してコンクリート舗装とした区間が多数あり、電線路の地下埋設や周辺の構造物を低く規制したり、鉄塔に注意喚起の赤白の塗装がされています。そして、最寄に移動管制所(トラックに搭載)と移動式レーダーを配備し、冷戦時代には24時間以内に稼働できる体制を取り、NATO軍の演習時には頻繁に離着陸訓練を実施していたそうです。
また、四囲を強国に囲まれた国民皆兵の永世中立国スイスは、高速道路を極力直線化し、中央分離帯を着脱式にし、トンネル内に格納した戦闘機が飛び立てる構造にしていて、全世帯に配布された戦争や災害に備えるマニュアル『民間防衛』に従って住民自らが中央分離帯を取り外し、実際に戦闘機を飛ばす訓練まで実施しているそうです。
ちなみに、スイスには巨大な岩や家、小屋などにカモフラージュし、周りの田園風景に溶け込ませた軍事施設が多数あり、中には古代の巨石群と見まごうトーチカもあるようです。日本では想像できない世界ですね。しかし、さすがに隣国の脅威にさらされていた冷戦時代も終わり、それらの維持費も馬鹿にならないことから、最近はホームレス用シェルターや博物館、ホテルといった色々な用途への転用も始まっているとのこと。

最後に我が国にも参考になるかもしれないオーストリアのハイウェイストリップスについてご紹介しましょう。
オーストリアは、アルプス山脈地域の高速道路に固定翼機が離着陸できる多数の簡易滑走区間を設け、複雑なアルプスの山岳地帯の中で上空から道路を容易に認識できるよう極端なくらいにまっすぐの線形で道路を整備したとのこと。そして、1999年の雪害では救助用ヘリコプターの離着陸場として活用されたそうです。

さて、我が国の道路線形の設計はというと、第1に経済性、そして自然環境の保全という観点から、切土・盛土を極力抑えた地形なりの滑らかな曲線を描き、副次効果として運転者の眠気防止も期待、というのが基本で緊急時の利用は想定外と言えそうです。
しかし、世界唯一の戦争放棄の国として軍事利用は問題外としても、場合によっては、災害時のリダンダンシーや災害救助、そして、平時のドクターヘリの離発着場としての活用といった発想も一考の余地があるのかもしれません。

(文責:小町谷信彦)
2018年9月第2号 No.38