道の話題 38「 “ルート66” の復活~米国・大衆文化のマザーロード

 “ルート66” をご存知でしょうか?
 “ルート66” は、米国の自動車時代の到来と共に造られたシカゴ~サンタモニカ(カリフォルニア州)間、全長3,755㎞の東西横断道路ですが、米国中西部と産業革命が進む五大湖地方を結び、米国の黄金時代、アメリカンドリームの象徴として米国人にとっては特別な意味を持つ道路です。
 ディズニー・アニメの「カーズ」(2006年公開)の舞台になった道路と言うとイメージできる方もおられるかもしれません。ずっと古い話では、1960年代に米国のTVドラマ“Route 66” がお茶の間の人気で、ナット・キング・コールが歌った主題歌が大ヒットということで、ジャズのスタンダードナンバーにもなっているので、聞けば「ああこの曲か」と思い当たる方もおられることでしょう。

かつての国道66号線の経路(出典:ウィキペディア「国道66号線(アメリカ合衆国)」)

 この街道が全米に知れ渡ったのは、米国を代表するノーベル賞作家・ジョン・スタインベックが「怒りの葡萄」で舞台として描き、ジョン・フォード監督が映画化してからでした。ヘンリー・フォンダ扮する東部の農民一家が、荷物を山積みにしたポンコツトラックで “ルート66” を西に向かうシーンはとても印象的でした。スタインベックは この作品の中で “ルート66” を「マザーロード」と呼びましたが、多くの米国民の心に「マザーロード」の記憶が刻まれたようです。

 その歴史をたどると、一部は古くからオセージ・インディアン・トレールと呼ばれたネイティブ・アメリカンが使った道でした。1800年代初めに電報線が引かれ、ワイヤー・ロードと呼ばれるようになり、1922年にはミズーリ州の州道へと発展し、1926年に連邦最初の国道の一つとして “ルート66” が誕生という経緯です。
 さて日本の国道の場合、東海道が1号、山陽道が2号という具合に順に番号が付けられているので、なぜ66号?という疑問を感じませんか?
 実は米国の国道は、南北方向は奇数、東西方向は偶数とされ、東海岸沿いを走る国道は1号、西海岸沿いは101号、カナダ国境沿いは2号、フロリダ~テキサス間は90号と、少々変則的に番号が付されているのです。それで “ルート66”は、60号の次の路線ということで当初は62号という案だったようですが、ゾロ目の方が覚えやすく、言いやすいということで66号に変更されたとのこと。
 おおらかなアメリカ人らしさがうかがわれる話ですね!

 “ルート66” は、1930年代には農地の土壌流出に加えて大恐慌で窮乏した東部の農民がカリフォルニアに新天地を求めて移動する車で溢れました。沿道には様々なショップやレストラン、ドライブ旅行者用ホテルとして誕生した「モーテル」が立ち並び、1938年に全米の国道で初めての舗装が完成すると益々沿道は賑わいを増しました。
 その後の第2次世界大戦はカリフォルニア州の軍需産業の隆盛をもたらし、“ルート66” は軍用品の運搬路という役割をも果たし、1950年代に観光旅行が盛んになると、ロサンゼルスやグランドキャニオンなどの観光ルートとして活況を呈しました。
 このように“ルート66” は、時代と共にその役割を変えながら沿道の賑わいを生み出してきました。そして、この沿道でドライブスルーが始まり、マクドナルドの元祖マクドナルド兄弟の評判のハンバーガー店が生まれたことを知ると、“ルート66” がアメリカ近代文化の縮図と言われるのにも合点がいきます。

 こんな繁栄を極めた“ルート66” ですが、アイゼンハワー大統領が1956年に連邦補助高速道路法に調印し、全米で高速道路網の整備を進めた結果、次々と州間高速道路に置き換えられ、ついに1984年に全路線が廃止されました。
しかし、各地で存続させたいという動きが起き、1990年にはミズーリ州政府が州の歴史的街道としての指定を宣言、他の州にもこの動きは広がり、2005年には国指定の景観街道「ナショナルシーニックバイウェイ」として「ヒストリックルート66」(道路延長972㎞)が復活したのです。

ニューメキシコ州内の現在の標識(出典:ウィキペディア「国道66号線(アメリカ合衆国)」

 ちなみに、日本の国道66号はどこかと言うと、実は存在しません。なぜならば、旧1級国道(最重要路線)は二桁表示で、旧2級国道は101号から始まる三桁表示とされていたことから、59~100号までは欠番となっているからなのです。
 それでは、北海道に目を転じ道道66号はと言うと、岩内町と洞爺湖町を結ぶ70㎞の地方道で、「ニセコ・パノラマライン」と称する「バイク・車でツーリングしたい日本百名道」にも選ばれた北海道らしい風景が楽しめるドライブロードです。
 私達には、“ルート66” というワードに特別な思いは湧きませんが、「北海道の“Route 66” niseko」というキャッチフレーズは意外と米国人観光客のハートにヒットするかもしれません。
 さて、皆さんにとっての「マザーロード」はどちらでしょうか?

2023年3月第1号 No.137号
(文責:小町谷信彦)