道の話題 4「弾丸道路と黄金道路」

弾丸道路と黄金道路

春を迎え、観光シーズンが到来しましたが、近年、弾丸ツアーとか弾丸トラベルという言葉を耳にするようになりました。ある特定の目的のために現地に直行し、機中泊や車中泊でとんぼ返りする旅行のことを言いますが、昔風に言えば強行軍。
さて、北海道には、俗に「弾丸道路」と呼ばれている国道があります。札幌と室蘭を結ぶ国道36号線の札幌~千歳間のルートなのですが、弾丸ツアーが盛んなのでそういう俗称になったわけではありません。ネーミングの由来は戦後間もない昭和28年頃に遡ります。この道路は、幅員7.5m、最高設計速度75kmという当時としては画期的な高規格道路だったのですが、34.5kmもの延長をたった13か月の突貫工事で完成、すなわち弾丸のような工事で完成させたということから「弾丸道路」と呼ばれるようになったと言われています。しかし、この説には異論もあり道路の緊急整備の目的が、朝鮮戦争のただ中、米軍の出撃基地だった千歳空港と札幌市内真駒内の米軍キャンプとを結ぶ軍用道路としての利用だったため、占領軍の弾丸を運ぶ道路という非難を込めて「弾丸道路」と呼ばれるようになったという説もあります。
ただ、この「弾丸道路」は、北海道では初めての本格的な長距離の舗装道路だったことに加え、当時、全国的に主流だったコンクリート舗装ではなく、積雪寒冷地に適したアスファルト舗装にチャレンジし、現代に至る舗装技術の転換の契機となったのです。さらに、短い工期で弾丸のように工事を完成させるために大規模機械の使用や細かな工区割による同時並行での作業実施など、新しい施工方法が取り入れられたほか、凍上抑制層の案出など、様々な革新的技術を生み出し、一時代を画す工事だったと言えそうです。

ところで、北海道にはもうひとつ魅力的なネーミングの国道があります。
森進一が「何もない春」と歌った「襟裳岬」に観光で来られたことのある方ならご存知だと思いますが、「黄金道路」です。黄金伝説の宝の山を連想される方もおられるかもしれませんが、実は風光明媚な断崖絶壁が連なる約32kmの海岸線に造られたこの秘境の道路(国道336号線のえりも町~広尾町区間)、7年の歳月と多額の費用をかけて岩盤と荒波との苦闘の末に開通した昭和9年当時、「まるでお札を並べたような道路だ」と言われたことから通称「黄金道路」となったとのこと。名前の由来は知らない方にも夢と浪漫が膨らむネーミングですね。
さて、黄金道路を英訳するとゴールデンロード。ゴールデンと言えば、サンフランシスコの「ゴールデンゲートブリッジ」を連想する方がおられるかもしれませんが、私の脳裏に思い浮かぶのは「新宿ゴールデン街」。木造長屋が狭い路地を挟んで軒を連ねるこの新宿歌舞伎町の場末の飲み屋街は、作家やジャーナリストなどの文筆業関係者のたまり場だったものが、だんだんと映画監督や劇団の演出家、俳優なども集まるようになり、サブカルチャーやアングラ芸術の発信地のひとつとして知られるようになりました。最近では、大勢の欧米の外国人観光客も訪れるようになり、バブル時代の地上げにも屈せずしぶとく生き残った昭和レトロ感が、ピカピカの現代日本では希薄となったオリエンタリズムを感じさせる稀少スポットとして欧米人を魅了しているようです。

‘70年代の襟裳岬の観光ブームが去って今年もひっそりと北国の春を迎える景勝「黄金道路」と国内外の訪問客で春の賑わいを見せる雑踏「新宿ゴールデン街」。「黄金の道」といっても色々ですね。
寡聞にして多くは知りませんが、他にも面白い名前や楽しい名前で通っている道路は色々あるのかもしれません。カレンダーを見ると月末からはゴールデンウィークですね。安全運転でのドライブとともに、読者の皆様からの耳よりの情報をお待ちしております。
  (文責:小町谷信彦)
   2018年4月第1号