道の話題34「自転車ロードレースの話~ツール・ド・フランスとツール・ド・北海道」

 今年も7月に、ツール・ド・フランスが大会史上初めて北欧で開幕し、コペンハーゲン(デンマーク)で24日間、3,328㎞の熱戦の火ぶたが切られます。1903年の第1回大会以来、第1次、第2次の世界大戦中を除き、コロナ禍の中も途切れることなく今年109回を数えるこの一大自転車レースは、世界中からの多くの観光客で賑わい、その経済効果は甚大です。
毎年変わるルートの選定では、数多くの町や村が立候補し、2年前にルートが決定するまで、招致活動にも熱が入ります。とりわけ、「グランデパール」と呼ばれる大会開幕地の招致には多額のお金が動き、最低でも200万ユーロ(約2億7千万円)の権利料が必要とも言われます。
 さて、「ツール・ド・フランス」は仏語で「フランス一周」。当初はパリ市内をスタートしてフランス本土を一周してパリに戻るという字義通りのフランス一周レースでしたが、1947年に隣国のベルギー、ルクセンブルグに越境したのを境に国外のコース設定が増え、国外でも大会開幕を飾るようになると観光色が強まっていきました。
コース選定には主催者の思いも込められ、例えば、EUが発足した1992年は、スペイン、フランス、ドイツなどEUの7カ国を廻るコース、ドーバー海峡(英仏海峡)トンネルが開通した1994年は、トンネル玄関口のカレー(フランス)がコースに選定されるなど、世相も反映されました。
 最近のトピックスは、2021年から始まった「都市の自転車愛」を格付けする表彰制度。過去にスタートあるいはゴール地点となった市町村が立候補し、自転車インフラの開発戦略やサイクリングをサポートするための施策、地域のサイクルスポーツクラブのサポート態勢などが審査され、格付けされます。格付けは、小さな黄色い自転車マークの数で一つ星から四つ星までの4段階で表示されるのですが、いかにも、格付けの元祖ミシュラン発祥の地フランスらしい取組と言えそうですね。
ちなみに、町への格付けの付与は、フランス政府後援の「ビル・ド・フルール(花の町)」に倣ったもので、格付けされた町では「ビル・ア・ベロ・デュ・ツール・ド・フランス(ツール・ド・フランスのサイクルシティ)」の銘板が町の境界の道路脇に設置されるそうです。

 ところで、日本でも日本版ツール・ド・フランスとして、1987年に北海道一周を目標とした「ツール・ド・北海道」が始まりました。雄大な自然と広大な土地、そして比較的交通量の少ない良好な道路という北海道の強みを生かして、サイクルスポーツの振興と地域コミュニケーションの促進を目指した取り組みで、日本最大のステージレースとしての実績を重ね、1997年には「ツール・ド・北海道国際大会」(グレード:UCIアジアツアー2.2)と国際大会に位置づけられるまでになりました。そして、「道北」「道南」「道東」の3地区で順番に毎年コースを変えて開催していましたが、当初6日間(6ステージ)だった大会日程が2010年以降は徐々に縮小され、現在は3日間(3ステージ)に短縮されているのは残念なことです。
それでも、2017年の大会では、最終の第3ステージのゴールを観光名所の函館山頂上に設定し、北海道の民放テレビの実況中継も行われるなど、盛り上がりを見せたのですが中々厳しい状況は続いています。
いったい、問題は何なのでしょうか?

 まず、コース設定ですが、迂回路が少なく、コースの交通規制を長時間行えないので左側車線の通行しか認められないといった道路交通上の制約は大きいようです。
 しかし、大きな問題はほかにありそうです。
 ヨーロッパでは市民の暮らしの中に自転車を楽しむ文化が根付いているのに対して、日本で自転車は、街中で近所まで行く便利な乗り物としては定着しつつも、走ること自体を楽しめる道路環境が貧弱で自転車文化も育っていないと言えそうです。
 昨今、北海道では北海道開発局と北海道庁が連携して、世界水準のサイクリング環境を目指した8つの広域ルートの取り組みが進められています。また、稚内の宗谷バスは、車内にサイクルラックを設置し自転車を積載できるサイクルバスの運行を開始し、旅行会社と連携したモニターツアーの実施など、宗谷地域のサイクルツーリズムを推進しています。
 北海道内の各地で始まったこれらの取り組みとツール・ド・北海道が相乗効果を生み出し、北海道の自転車文化を育み、北海道がサイクルスポーツ・サイクルツーリングのメッカとなる日を待ち望みたいと思います。

2022年5月第2号 No.120号
(文責:小町谷信彦)