土木の話題31「美しい土木施設とは?~風景との調和、色、光」

 東京オリンピックは当初予定より1年遅れの2021年に成功裏に終りましたが、準備段階では色々とトラブルに悩まされた大会でした。
 とりわけ、メインスタジアムの新国立競技場の設計コンペでは、ザハ・ハディドの斬新なデザインが高い評価を得て優勝したものの、高さ75mという神宮の森を凌駕する圧倒的スケールが物議をかもしただけではなく、計画敷地内に収まらないという根本的問題も発覚し、コンペ次点の隈研吾案で再設計することとなりました。一時は大会開始までの完成が危惧されましたが、無事完成に至り、日本のスーパーゼネコンの技術力の高さが改めて証明されました。しかし、想定外のコロナ禍で大会はあえなく延期。設計・工事関係者には、昼夜間問わずのあの奮闘は何だったのかという思いもあったかもしれません。
 そんな経緯はさておき、隈研吾氏の地域素材を活かし、周辺の風景との調和を目指した建築スタイルが、新国立競技場という一大プロジェクトを通して一般的に広く知られ、評判を呼んだことは喜ばしいことです。ともすると周辺との調和よりも建築物の自己完結的な自己主張が目立つ現代建築の世界に、新しい風を吹き込んだと言えるでしょう。

 さて、風景との調和は、建築だけではなく、土木施設の美しさを考える上でも重要なポイントと思われます。
 もちろん、土木構造物のデザインの美しさとか、構造が生み出す力動的な美しさもあるでしょう。確かに巨大ダムの圧倒的なスケール感やアーチ橋の鋼材の武骨さは独特の美しさを感じさせます。
 しかし、例えば、紅葉の山をバックにした豊平峡ダム、濃緑の森の水すだれが涼を漂わせる奥沢水源地など、風景との調和が土木施設の美を際立たせているケースも多いように思います。とりわけ、北海道は、豊かな美しい自然と雄大な田園風景に恵まれ、絵になる風景の宝庫なので、その風土に馴染んだ土木構造物は風景美を引き立てる舞台装置となります。その価値や可能性をもっと評価しても良いのではないでしょうか?

 風景との調和、すなわち周辺環境との調和は、人工物に囲まれた都市においても重要です。
 2004年の景観法の制定が起爆剤となり、全国各地での景観整備が進みましたが、景観形成の重要な要素である色彩についても、同じ2004年に札幌市が策定した「札幌の景観色70色」が先導的な役割を果たしました。市民を対象とした言葉によるイメージ調査で明らかになった「もっとも札幌らしい季節は春から夏まで」という市民イメージをもとに、「クール・ソフト・ナチュラル」というキーワードを抽出し、札幌を意識し、心にとめてもらいたいという思いを込めて、「リラ雪」「雪虫」「札幌玉葱」といった郷土色豊かなネーミングの70色が選定されました。
 北海道でも札幌市に続いてラベンダーの町として知られる富良野はラベンダーを町の基調色として景観づくりが進められていますが、土木施設も例えば橋の色などに関しては地域らしさに配慮する必要がありそうです。

 一方、近年各地で盛んになったライトアップも夜の都市の魅力向上に一役買い、土木施設の美しさの演出という面でも大いに貢献しています。
 例えば、室蘭の測量山は、日本夜景遺産百選に選定されていますが、深夜まで光り輝く製鉄工場の明かりとともにイルミネーションで浮かび上がる白鳥大橋の優美なシルエットが大きな見どころとなっています。
 また、東京の隅田川では、2020年に河口の築地大橋から上流の白髭橋までの10橋のライトアップ整備が完了し、「光で見せる橋の構造美」が話題を呼んでいます。「橋それぞれの塗装色を生かした照明とともに、欄干カラー照明が組み込まれ、橋梁群で統一されたカラー演出」(東京都建設局HP)が特徴で、東京の新たな夜景スポットとして期待されています。特に蔵前橋の照明は、江戸時代に周辺が米蔵だったことから稲穂をイメージして黄色系で塗装された構造部材を温かみのある白色光で照らしていますが、桁下の繊細な構造部材を照らす光が水面に反射して、往時の賑わいを想像させる優美な夜景を創り出しています。

 クジャクやオシドリの色鮮やかな羽は、雄だけのもので雌を引き寄せるために進化したと言われていますが、人間も美しい風景に魅了されるDNAを持っているのではないでしょうか?
 ひとたび出来上がると、私達の一生よりも長生きする可能性もあるのが土木施設。
出来うることなら、美しく、末長く人々から愛され続けるものを後世に残したいものです。

(参考)
1)隈研吾氏の建築については以下のコラムでもご紹介しています。
(橋の話題 23「橋と建築~隈研吾氏の作品から~」;2020年2月)
2)北海道の美しい土木施設について、以下のコーナーでご紹介しています。
(伝えたい、残したい。北海道の土木。その風景と歴史

2022年4月第1号 No.117号
(文責:小町谷信彦)