土木の話題 24「SDGsと土木事業」

SDGsと土木事業

 「宇宙船地球号」という言葉をご存じでしょうか?
 最近はあまり耳にしなくなったような気がしますが、米国の経済学者ケネス・E・ボールディングが著書「来るべき宇宙船地球号の経済学」(1966年)で無限の資源を前提としたそれまでの経済学に対して地球の資源の有限性をクローズアップし、地球を宇宙船に例えたことで一般化した言葉です。
 当時は石油などの資源枯渇問題に主眼が置かれていましたが、地球環境問題が先鋭化した昨今、「宇宙船地球号」は益々難しい舵取りを迫られています。 

「月から見た地球(宇宙船地球号)」(写真:NASA)

 今や「サステナブル(持続可能な)」という言葉は、世界共通の重要課題として広く認識されるようになり、2015年の国連サミットでは “SDGs”(「持続可能な開発目標」;Sustainable Development Goals)が国連加盟193か国によって採択され、環境のみならず経済や社会を含めて包括的に地球全体、人類全般の課題解決を目指すことが世界で合意されました。
 SDGsは、いわば「未来の世界のかたち」で、持続可能な成長・発展を目指して、2030年を年限とする17の国際目標と169のターゲットを定めた世界変革のためのプログラムと言えます。
 SDGsは、これまでのミレニアム開発目標等と異なり、目標のみを掲げてその実現を前提として現在に遡って実施すべき取り組みを決めるという発想(「バックキャスティング」)で、目標達成のためのルールを定めていないという点に大きな特徴があります。すなわち、課題解決に向けては、アプローチの多様性、創造性を引き出し、政府・地方自治体や非営利団体だけではなく民間企業や個人も含めた多様な主体による参加と協働が期待されています。

SDGs 17の開発目標(国連広報センター;市民への浸透のために ①ロゴを使用、②コピーライターによる日本語訳)

 さて、SDGsはこのように国の枠、組織の枠を超えた私たちの未来のための取り組みなので、土木事業においても積極的な参加が望まれるところです。そこで特に注目すべき課題は、開発目標13の「気候変動に具体的な対策を」と言えそうです。
 近年、世界中で頻発している自然災害の多くは地球温暖化に起因しているとも考えられますので、防災事業は肝要ですが、同時にCO₂削減技術の開発などの地球温暖化対策への貢献も望まれます。
 特にCO₂削減という観点から技術革新が期待されるのは、セメントの製造過程で多量のCO₂を排出するコンクリートですが、実は作れば作るほどCO₂を削減できる「植物のようなコンクリート」が開発されています。
 中国電力、鹿島建設、デンカが共同開発した「CO₂-SUICOM」がその夢のようなコンクリートなのですが、デンカが特殊な副生消石灰から生成した材料を用いた特殊混和材がCO₂と反応して炭酸カルシウムとなり、CO₂がコンクリートに吸収、固化されるというメカニズムを利用しています。その上、このコンクリートはセメントの使用量を減らし、火力発電所の産業副産物の石灰灰や製鉄所の産業副産物の高炉スラグを材料として使用することで産業副産物を有効活用できる一石二鳥の優れものなのです。ただ残念なことに、コストが普及を阻む大きな壁で、例えば舗装材のインターロッキングでは従来製品の3倍から5倍の価格になってしまうとのことです。
 最近、大成建設でも高炉スラグの活用により製造過程でのCO₂収支がマイナス55~5kg / ㎥になるというカーボンリサイクル・コンクリートが開発されましたが、カーボンニュートラル(地球温暖化の排出ゼロ)を目指した一層の技術開発と普及が期待されるところです。

 次に植物の特性をインフラの維持管理に活かした新技術をご紹介しましょう。
 平成29年度の第2回インフラメンテナンス大賞(主催:国土交通省)を受賞した「防草ブロック」(全国防草ブロック協会)は、縁石の上端部と縁石を据える基礎のベース版の上端部に鋭角の切れ込みを入れた独特の形の道路縁石なのですが、植物の根が地中に向かって成長し、成長方向が逆向きになるとホルモンの異常分泌により成長が止まり枯死するという特性を利用して、雑草を自滅させます。雑草の根はブロックに沿って伸び、切り込み部分に誘導されて上向きに根を伸ばそうとして生育障害を起こすという仕掛けです。グッドアイディアですね!

 最近は蝶や鳥の羽のデザインを真似た扇風機やエアコンのファン、ヤモリの足裏の吸着メカニズムを活用した強力接着テープが開発され、飛行中のジャンボジェットを捕捉できるとも言われる軽量・強靭なクモの糸が新素材のモデルとして開発が進められているようです。
 ちなみに、開発当時、世界最速の時速300kmを達成した新幹線500系の最大の難問、騒音問題の解決の決め手はフクロウとカワセミだったとのこと。ほとんど音を立てず飛べるフクロウの秘密が空気抵抗を最小限にできる風切羽に付いているギザギザの構造にあることを突き止め、ギザギザを付けた翼型パンタグラフを開発し、また、カワセミのクチバシの鋭い形を先頭車両の形状に取り入れて走行抵抗を大幅に減らして騒音問題を解消したのだそうです。

 このように神業としか言えないような不思議なデザインが自然界には溢れています。
 土木事業も、もっと自然を知り、自然の巧みな知恵を取り込むことで、新たな土木ワールドが広がるのかもしれません。

 

(参考文献)

「SDGs」(中公新書;蟹江憲史著)

  (文責:小町谷信彦)
2021年3月第1号 No.93号