「インフラツーリズム」という新たなスタイルの観光ツアーをご存知でしょうか?
大規模なダムや橋、あるいは歴史的な橋やトンネルなどのインフラ施設を見て学ぶツアーで、近年、全国的に取り組みが始まっています。
その成功例としてしばしば取り上げられるのが「首都圏外郭放水路」です。
この世界最大級の規模を誇る地下放水路は、江戸川の支川流域の洪水防御のために建設されたものですが、防災インフラとしての機能のみならず、コロナ禍以前は年間3万人を超える見学者に利用され、地域の観光活性化にも大いに貢献しました。
地下放水路は、洪水を取り入れる「流入施設」と「立坑」、洪水を流す地下河川の「トンネル」、水の勢いを弱めスムーズに流す「調圧水槽」、洪水を排水する「排水機場」などで構成されていますが、ツアーで一般に公開されているのは調圧水槽です。
この水槽は、長さが177m、幅は78mもあり、天井部分がサッカーグラウンドとして活用されていることからもその巨大さがうかがい知れます。そして、水槽内には高さが18m、重さが約500tもある柱が全部で59本、整然と立ち並び、荘厳さすら感じさせます。「地下神殿」と呼ばれるのも納得です。
首都圏外郭地下放水路(出典:国土交通省関東地方整備局江戸川河川事務所HP「調圧水槽」)
この施設に関するもうひとつの注目点は、地元の春日部市(埼玉県)が民間事業者と連携協定を締結し、見学会の企画運営を民間事業者に委託したという運営の方法です。
これによって、土日祝日の見学会の開催が可能となり、見学者数が飛躍的に増加したとのこと。英語版・中国版のパンフレットや多言語対応の音声ガイドアプリ等も功を奏して外国人の利用者も増加し、民活効果が随所に現れているようです。
橋もインフラツーリズムでしばしば活用されていますが、世界最大の吊橋である明石海峡大橋では、高さ約300mの主塔に登頂するツアー「明石海峡大橋ブリッジワールド」が人気で、関西からの国内客のほかに、2019年までは台湾や香港などの海外旅行者も参加者の2割程を占めていたとのことです。
インフラわくわくツアー 釧路編
さて、インフラツーリズムの代表例とその魅力についてご紹介しましたが、その歴史はまだ浅く、発展の途上と言えそうです。施設の特色を活かしたユニークな企画や地域の他の観光施設と連携させて広域観光に発展させるなど、さらなる地域活性化を目指してブラッシュアップを図っていきたいものです。
それにしても、新型コロナ感染症が収まらないことには何も始められません。昨今、コロナ問題といい、地球温暖化問題といい、地球規模での連携・協力が必須の問題が山積していますが、国家間の対立を乗り越えた協力と人類全体の知恵が試さる難しい時代に私たちは生きているのかもしれません。
2022年1月第1号 No.112号
(文責:小町谷信彦)