土木の話題17「地下空間と土木」

地下空間と土木

大深度地下使用法という法律をご存知でしょうか?
大深度地下の利用は、1980年代にバブルによる地価高騰で新たな公共事業が中々進まないことから、地価に左右されずに新規路線を開設できる切り札として提案されたもので、地下40m以下を公共目的で利用する場合に限り、所有権にかかわりなく自由使用を認めるという大深度地下使用法が2001年に法制化されました。
しかし、換気や災害時の安全性の確保など、技術的な問題や建設コストが割高といった難点から事業化が進まなかったのですが、2007年の神戸市送水管敷設事業を皮切りに国土交通省と東日本・中日本の両高速道路会社の共同事業である東京外かく環状道路、JR東海の中央新幹線と今では大深度地下で多様な大規模プロジェクトが進められています。
そして、今年2月には河川事業としては初の大深度地下の巨大遊水池「寝屋川北部地下河川」の工事が着工しました。元々は都市計画道路の下に整備する計画だったのですが、道路整備が一向に進まないことから早期に整備する必要から方針を変更したとのこと。
工事個所は地下水で水没した中での地下深くの非常に硬い地盤の掘削と水中コンクリートの打設という難工事です。

実は、大深度地下使用法が制定される以前、1993年には地底50mを流れる世界最大級の地下放水路「首都圏外郭放水路」が着工しましたが、これは国道16号の地下利用だったので用地問題は生じず、法の適用の必要がなかったのです。
この全長6.3kmの放水路は2006年に完成しましたが、地下式なので地域を分断するという弊害もなく、中川・綾瀬川の流域被害を大きく軽減することが出来ました。
さらに一般市民や学校などのための見学施設として整備された“地底探検ミュージアム「龍Q館」には、毎年3万人以上の見学者が訪れ、基盤整備の意義のPRに一役買っています。

 

   首都圏外郭放水路(出典:ウィキペディア)

さて、大深度地下ならずとも地下は、これまでも様々な利用がされてきました。
思い浮かぶのは、地下鉄、地下道、防空壕、下水道に水道と色々ありますね。
意外と地下を通っていることが知られていないのが、電気や電話の電線です。
送電線の地中化率は、全国では約30%(2018年度末現在)ですが、東京23区だけで見ると約92%ということでほとんど地中化されていることがわかります。
ちなみに、最大電圧50万Vの地中送電線を世界で初めて導入したのは東京電力で、その送電線を収容する洞道(とうどう:トンネル)の直径は約7.4mということですので、かなりのスケールのトンネルが都心の地下8~18mを走っているのです。
東京電力によると大小合わせて首都圏の地下には洞道が約500kmもあり、洞道を歩いていけば都内の各所に行けるようです。もっとも、6600Vを超える高圧線の下を歩こうという勇気はありませんが。

他にも札幌を例に取ると都心部の道路・公園の地下を利用した駐車場(札幌北1条通り、大通公園)や道路を地下化することにより地上部を緑道化(創成川公園)など、貴重な都市空間の有効活用という観点からの地下利用が進んでいます。
また、国道36号は電柱をできるだけ少なくし、電線を地下に通したので、景観が非常に良くなりました。

海外でも公園や広場の地下を駐車場化して地上からできるだけ車を排除して歩行者のための緑豊かな空間にしようという動きが広がっています。
東京駅の地下深くのプラットフォームに降りる時には、延々と続くエスカレーターにウンザリしてしまいますが、良くも悪くも地下空間と仲良く付き合っていかなければならない時代になったようです。

         創成川公園

(文責:小町谷信彦)
2020年7月第1号 No.80号