土木と社会、環境
たいそうなタイトルを付けてしまいましたが、大学などの学科名から「土木」という文字が消えつつあるという話です。恐らく、土木工学を専攻された方々の中には、母校の看板から土木という懐かしい言葉が消えて、一抹の寂しさをえた方も多いことでしょう。
1980年代に建設業界=3Kというイメージが定着してしまい、土木学科の受験生の減少を招いたため、「土木」のネガティブなイメージを払しょくしたいと全国の大学がこぞって学科名の改称に走りました。その際に多くの大学が採用したのが、「社会」や「環境」という言葉でした。英語では、土木工学は「シビル・エンジニアリング」すなわち「市民工学」ですし、道路や下水道などを一般的は「社会基盤施設」で通っていますので、「社会基盤工学」といったネーミングへの改称は違和感がなさそうですね。
一方、「環境」は、自然破壊の象徴と見なされた土木の名誉回復、すなわち、環境との共生に配慮した新しい時代の土木を目指してということなのでしょう。「環境土木工学」「土木環境工学」それから「社会環境工学」「環境社会工学」と色々ありますね。いくつかのキーワードの並び順が違いのは何故?と突っ込みを入れたくもなりますが。
そして土木改称御三家の最後は「建設」。「建設工学」「社会建設工学」「建設社会工学」「環境建設工学」等々。環境問題や都市再開発プロジェクトに土木と建築とのコラボレーションが求められる時代の反映なのでしょうが、建築のスマートなイメージに相乗りした一種のコバンザメ作戦と言えないこともないかもしれません。
さらに、「都市」「システム」「デザイン」が加わると、キーワードの組み合わせは多種多様、土木学科の新しいネーミングは、まさに百花繚乱です。
一方、2016年時点で、土木工学科と名乗る大学は6校、学科名に土木が含まれる大学を合わせても15校とのことで、「土木学科」という名称は、絶滅危惧種の指定が必要な段階かもしれません。
余談になりますが、弊社のキャッチフレーズは「草木を守り、野の土を愛し、もの作りを楽しみ、工(たくみ)を極める」。これは、「草野作工」の四文字をもじったものですが、その心は、土と木を大切にする精神です。
昨今、懐かしの昭和レトロが若者に新鮮なものとして受けていますが、同様に、いつの日か、昔の名前で出ている「土木工学科」も、3Kイメージの「土木」を知らない新世代の若者たちから「自然との共生」を象徴する素朴で風流なネーミングとして再評価される日が来るかもしれません (N.K)