土木の話題26「インフラメンテナンスの礎~ローマ街道とローマ水道」

 我が国の高齢化は社会問題化してから久しくなりますが、もっと急速に高齢化が進んでいるのが高度経済成長期に一気に整備されたインフラ(社会資本ストック)です。インフラは、団塊世代などの人口急増に対応して必要な施設として整備されたことを考えると、人の高齢化と並行して老朽化問題が生じるのは当然と言えば当然のことで、今、インフラのメンテナンス(維持管理・更新)は喫緊の課題となっているのです。

 さて、インフラメンテナンスは今に始まったことではありません。古代文明の誕生とともに道路や水路などのインフラの建設は始まりますが、そのメンテナンスはと言うと時代が下って古代ローマ時代がその始まりとされています。
 古代ローマの街道は紀元前3世紀から紀元後5世紀までの800年もの間、広大なローマ帝国の領土を統合する基盤となり、そして各地に作られた水道は市民に豊かな都市生活を提供しました。

「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」の土台となったこの2つのインフラについては、時代を超えた高度な土木技術や今日でも道路計画の基本となっている都市間ネットワークと自然災害時のリダンダンシー(代替性)確保のための複線化(ダブルネットワーク)*注)という画期的なアイディアに注目が集まりがちですが、何百年もその機能を維持するために地道なメンテナンス作業が行われ、それを支える技術と体制(官職)が備えられていたという点を見落としてはなりません。*注)複線化の主目的は敵に一方の街道を制圧された際の逃げ道の確保で、リダンダンシーは副次的な目的だった。 

 ローマ水道もマインツ大学の研究チームが12世紀まで約800年間も使われたコンスタンチノープル(現イスタンブール(トルコ))の水道菅の内部には27年程度の使用に相当する水垢(炭酸塩堆積物)しか残っていないことを明らかにし、定期的に堆積物が除去されていたことがわかりました。
さらに興味深いのは、この水道の一部は上下に水路が走る二階建て水道橋になっており、総距離426㎞の清掃や修理に伴う数週間から数か月の断水を避けるために水路を二重化にしたのではと考えられています。ほかにも地震への備えとして新たな水路増設の際に旧水路も残したのではないかという説もあり、当時の水道の遺構が数少なくなってしまった今となっては真相を明らかにするのは難しいようです。

ローマ水道(フランスのポン・デュワール)出典Wikipedia

 ローマ帝国は国家財政の7割が国防費を占め、少数の役人(貴族)が統治する小さな政府でした。地方に派遣された役人は徴税を任されその余禄もあり、私財や富裕層・市民からの寄付を財源としてインフラの建設やメンテナンスを行ったとのことです。それゆえ、自分の名が刻まれた記念碑が建つ建設事業には積極的でも、自己アピールにならないメンテナンスにはお金が集まりにくいという問題があり、その後の帝国の衰えは貴族たちにもダメージを与え、街道の荒廃は国力の衰退を加速するという悪循環をもたらしました。帝国の繁栄とそれを支えたインフラは運命共同体だったのです。
 
 現代のインフラメンテナンスに話を戻すと、道路の開通式などが注目されニュースにもなるのとは対照的に縁の下のメンテナンスに日が当たらないのは、いつの時代も変わらないと言えそうです。
とは言え、「本当に大切なものは目に見えない」という星の王子様の最後のくだりは核心をついているかもしれません。
 私たちは数百年も続いた「ローマの平和」の末路を教訓に、インフラメンテナンスの重要性について再認識して、持続可能な「世界の平和」を共に作っていきたいものです。

2021年7月第2号 No.102号
(文責:小町谷信彦)