土木の話題18「土木と広報」

土木と広報

 土木学会が2018年から「土木広報大賞」という表彰を始めました。
官公庁や建設会社などが実施した土木や建設業に関わる広報活動で特に優れたものを表彰するものです。学術学会がこのような取り組みを主催するのは、とても珍しいのではないでしょうか?
逆に言うと、学会が乗り出して関係者の広報活動に対するモチベーションを高めなければならないほど土木の世界では広報がなおざりにされていたということなのかもしれません。ちなみに、日本広報学会は、優秀な研究論文を表彰していますが、広報そのものの表彰は行っていないのです。

 古い話なので年配の方しかご存知ないと思いますが、1970年に「男は黙ってサッポロビール」というCMが大ヒットしました。
戦後の日本を代表する映画俳優「三船敏郎」が無言でビールを飲むシーンだけがアップになるCMなのですが、爽やかな切れ味が特徴でそれまでやや女性的なイメージだったサッポロビールに男の中の男のビールという強烈なインパクトを与えるものでした。
売れっ子の美人女優オンパレードで女子をターゲットにした現代のビールのCMとは、隔世の感がありますが、当時は、ビールと言えば基本、男の飲み物だったのです。
私のイメージでは、土木の事業は黙々とビールを飲んでいるたくましい三船敏郎の姿とかぶるのです。

 それにしても、戦時中は特攻隊にいた三船敏郎ですから「男のくせに面(ツラ)で飯を
食うのは好きでない」という大の俳優嫌いだったという話で、その野性味と圧倒的存在感に惚れ込んだ映画監督や看板女優からの強い押しがあったとは言え、一歩間違えば名優・三船敏郎は生まれず、日本の戦後の映画史は大きく様変わりしていたことでしょう。

 さて、土木、建設業は男の世界で、寡黙に体を張って汗まみれで働く縁の下の力持ち。これまでは、こういうイメージが自他ともに強かったのではないでしょうか?
建設業が、3Kとか6Kとか言われ始めて久しくなりますが、昨今、「働き方改革」の動きに合わせて「新しい建設業」への変革が不可避の時代になってきました。
今や3K、6Kが過去の話、死語として語られるような、ドボジョ(土木女子)が明るく伸び伸びと働ける現場環境が求められています。
そして、新しく生まれ変わろうとしている建設業の姿と土木の魅力を世の中にわかりやすく発信していく必要があります。
 「広報」を和英辞典で調べると、①Publicity(パブリシティ)、②Public Information(パブリック・インフォーメーション)③Public Relations(パブリック・リレーションズ)と3つの英単語が出てきます。ざっくり言えば、ひと昔前の広報は、パブリシティ(広告)、パブリック・インフォーメーション(公的な情報)という意味合い強かったのですが、近年はパブリック・リレーションズ(社会との関係性)、すなわち、様々な関係者(ステークホルダー)との関係構築のためのコミュニケーション手段として戦略的に考えられることが多くなってきたように思います。
建設業についても将来の明るい未来を拓くために業界が一丸となって、土木と建設業の役割や魅力を多様な関係者に様々工夫を凝らして情報発信していきたいものです。

 苦み走った顔で黙ってビールを飲む時代は終わり、明るく爽やかにビールを飲みほして「幸せ!」と叫ばないと共感が得られない時代なのですから!

(文責:小町谷信彦)
2020年7月第2号 No.81号