土木の話題49 「三峡ダム~地球の自転にも影響する巨大構造物」

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 昨今、大規模な災害のニュースを目にするにつけ、圧倒的な自然の猛威に人間の無力さを痛感する方は多いのではないでしょうか?
 しかし、人間の力もここまで来たか、と思わせる話題もあります。
 少々古い話ですが、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、2005年に中国湖北省にある世界最大の水力発電ダム「三峡ダム」が地球の自転速度に影響を与えている可能性がある、という報告を発表しました。
 三峡ダムは、満水時には約40万k㎥、オリンピック用プールなら1,600万倍、琵琶湖なら1,450杯分の水を貯えられる巨大なダムなのですが、この膨大な水の移動が、地球の形を赤道方向にわずかに膨らませ、極地域をやや平らに変形させ、1日の長さを0.06マイクロ秒短くするというのです。これは、フィギュアスケートで回転をする時に、スケーターが縮めていた手を広げると回転速度が落ちるのと同じ原理です。
 もっとも、ストップウォッチで計測できないくらいの短い一瞬という程度で、今すぐ大きな影響が出るような話ではないのですが、人間の創造物が地球の動きにまで影響を及ぼすとは、たいしたものです!

 もう一つ取り上げたいのは、「万里の長城」です。
 古代中国・秦の始皇帝が築いたことで知られていますが、歴代の王朝により建設は続き、1,800年も歳月を掛けて総延長約21,000km、地球半周にも相当する長さに達しました。
 かつては、「宇宙から肉眼で見える唯一の建造物」とも言われ、中国の教科書にも掲載されたようですが、宇宙から中国人宇宙飛行士が確認を試みたものの、さすがに肉眼では確認できず、教科書から削除されました。
 しかしこれは、まさに地球規模の建造物と言っても過言ではないでしょう。

 一方、地球の自転速度への影響という話では、温室効果ガス排出による地球温暖化も関係していることが明らかになってきました。
 南極大陸やグリーンランドの氷床が急速に解けて水が移動することが原因で、2000年以降、100年当たり約1.33ミリ秒のペースで日が長くなっていることが報告されたのです。
 余談ですが、マグニチュード9前後の巨大地震も日の長さに影響し、2004年のスマトラ地震、2011年の東日本大地震でも日がごくわずか短くなったそうです。人為だけではなく、色々な事象が地球の自転には関係しているようです。

 しかしながら、今私達が住んでいる地球について良く知ると、色々なことが見えてきます。
 例えば、地球の自転の速度が今よりもっと遅ければ、1日が長くなり、太陽に向いた昼の面は猛烈な暑さ、反対側の夜の面は凍り付く寒さになります。逆に自転速度がもっと早ければ、1日は短くなり、高速回転のために暴風が吹き荒れていました。つまり、現在の自転速度は私達人間のためには最適なのです。
 そして、23.4度の自転軸の傾きは、季節のサイクルを生み、地球全体を程好い気温に保つのに貢献しています。
 さらに太陽から1億5000万キロという距離は、気温が高過ぎず低過ぎず、最適に保たれる丁度良い距離で、月が地球を周回することで、地球の地軸は安定し、正確に同じ軌道を動くので、私達は春夏秋冬を楽しめるのです。
 この絶妙なバランスゆえに、地球は「奇跡の星」とも呼ばれるわけですが、これは単なる偶然の所産なのでしょうか?
 「人間の力も中々のもの」と思いつつも、この宇宙、そして地球の巧みな仕組みと秩序について知れば知るほど、その驚異的な神業に比べると、「人間の力など知れたもの!」と改めて思い知らされます。

2025年6月第1号 No.165
(文責:小町谷信彦)