土木の話題32「駅の話~時代を映す「〇〇の駅」」

 駅と言えば、ひと昔前までは鉄道の駅と相場は決まっていたのですが、「道の駅」が活況を呈するようになって以来、川の駅、まちの駅、海の駅等々、中には当社の地元・江別の野菜直売所「野菜の駅」のように「何で駅?」という類も含めて百花繚乱です。
 ところで、「駅」は、旧字の「驛」(訓読み「うまや」)の語源が「馬を手繰り寄せる」ということからもわかるように、徒歩、あるいは馬や籠で旅した時代に旅人と馬が休む宿駅でした。それが明治以降、欧米から導入された鉄道が馬に取って替わり、「駅」も「鉄道駅」を指すようになったのです。
 一方、英語の「駅(Station)」の語源は、「人が立っている場所」という意味で、鉄道駅(Railroad Station)のほか、警察署(Police Station)、消防署(Fire Station)など、使われ方はさまざまです。日本でも何故かバスステーションという言葉だけは普及しました。
 
 さて、彼我を問わず20世紀半ばまでは、遠方への人々の移動は主に鉄道によっていたことから、鉄道の駅は人が離合集散する賑わいの場となり、町は鉄道駅を中心に発達してきました。そして、人と人との出会いや別れの場ともなった鉄道駅は、感動を演出する舞台装置として様々な映画で使われました。邦画では、高倉健主演の「駅」や「ポッポ屋」、洋画では、イタリア映画の「終着駅」、全盛時代のハリウッド映画の「カサブランカ」や「哀愁」、また最近ウクライナが舞台の映画として俄かに話題を呼び、リバイバル上映されたソフィア・ローレン主演の「ヒマワリ」等々、駅での劇的シーンが脳裏に浮かぶ古典的名作は枚挙にいとまがありません。
 しかし、鉄道の時代は過去のものとなり、時代の主役は車と飛行機に替わりました。2004年に公開された巨匠スピルバーグ監督のヒット作品「ターミナル」は、空港だけで全てのドラマが展開するという、まさに駅の主役交代を象徴する映画でした。
「空の駅」空港は、今や単なる航空機の発着拠点ではありません。例えば、北海道の玄関口・新千歳空港は、十年程前に映画館や温泉、ドラえもんパーク等、さまざまな施設が整備され、楽しめる空港に変身しつつあります。
 欧米ではこのような賑わいの場としての空港整備がさらに進んでいて、オランダのスキポール空港ではオランダの名画を鑑賞できる美術館や科学技術博物館が併設され、空港内のパブリックスペースでも点在するアート作品を楽しめると言います。一度訪れてみたい空港ですね。

 現代の駅のもう一つの主役は、「道の駅」と言えるでしょう。地域の中核となる「駅」として、機能の多様化・複合化が進んでいます。
多様化という点については、色々な駅、例えば、鉄道駅、空港、港、バスターミナル、「川の駅」と一体となった道の駅やハイウェイオアシス、スキー場、レジャー施設との併設など、全国各地でさまざまな道の駅が誕生しています。
 また、観光の拠点としての道の駅のポテンシャルを活かした興味深いプロジェクトが進んでいます。
「Trip Base道の駅プロジェクト」は、積水ハウスと国際的ホテル・ブランド ”マリオト・インターナショナル” が「道の駅」を拠点に、「地域の知られざる魅力を渡り歩く旅の提案」を通して、地域経済の活性化を目指す地方創生事業で、2020年に日光や飛騨高山などでホテルを開業したのを皮切りに現在(令和4年7月時点)、全国7道府県で18施設をオープンしています。そして、2025年までに連携する25道府県にて約3,000室規模への拡大を目指すとのこと。これまで「旅の中継拠点」だった道の駅を「旅の拠点」に変え、「道の駅」をハブとして、各地に分散している観光資源をネットワーク化しようという狙いですが、今後の展開に期待が高まります。

道と川の駅「花ロードえにわ」(北海道・恵庭市)のホテル「シェフィールド・バイ・マリオット」

道の駅「マオイの丘公園」(北海道・長沼町)のホテル「フェフィールド・バイ・マリオット」

 ちなみに、「道の駅」は車社会のフロントランナー米国が発祥かと思えばさにあらず、我が国の発案とのこと。
 発展途上国における地方振興策として有効という世界銀行やJICAのお墨付きもあり、タイ、ベトナム、インドネシアを始めとして、中央アジアに中南米と世界中に広がりつつあります。国を超えた「世界一周・道の駅スタンプラリー」なんていうのも、近い将来、夢ではなくなるかもしれません。

 2022年7月第1 号 No.122号
(文責:小町谷信彦)