土木の話題 23「グリーンインフラとグレーインフラ」

グリーンインフラとグレーインフラ

 インフラとは、一般的に「社会の基盤となる施設」という意味で使われていますが、この言葉から皆さんは何をイメージされるでしょうか?
多くの方は、道路やダム、トンネルと言ったコンクリート構造物を連想されることでしょう。
 しかし昨今、このグレーなイメージとは違った新しい概念のインフラ「グリーンインフラ」が注目されています。
「グリーンインフラ」は、自然環境の多様な機能を持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりのインフラとして活用しようというもので、従来の「グレーインフラ」と対比的に区別されています。
具体的には、植物が持つ保水機能や蒸発散による気温低減効果などを活用した「みどりのインフラ」として緑地などを整備して、近年多発している都市のゲリラ豪雨被害やヒートアイランド現象を緩和するもので、防災や都市環境の改善のほか、美しい景観や都市住民への安らぎの提供といった多面的な効用が期待され、ケースバイケースですが整備や維持管理コストの縮減効果も見込まれています。

 この取り組みは、アスファルトジャングルと化した大都市のニューヨークやフィラデルフィア等で2010年頃から本格的に始まり、日本でも2015年に策定された国土形成計画や国土強靭化計画の中に盛り込まれたのを契機に各地で整備が始まりましたが、2010年に既に札幌市が姉妹都市の米国ポートランドの先駆的事例を参考に、グリーンインフラを活用した雨水流出低減対策として「雨水浸透型花壇」(レインガーデン)を市内の公園や動物園に整備していたことは特筆できるかもしれません。
 そして2020年度には、このレインガーデンや駐車場の透水性舗装、建築物の緑化などを都市型洪水被害対策、暑熱対策、賑わい空間づくりのためのグリーンインフラとして官民連携により戦略的に整備する総合的支援制度が国交省により創設され、自治体だけでなく民間事業者等も支援が受けられるようになりましたので、今後、全国での本格的な展開が期待されます。

 さて、近年の日本の地方は、人口減少で空き地・空き家が増加し都市中心部の土地の低未利用化が進み、都市の活力が低下するという、いわゆる「都市のスポンジ化」が大きな問題とされ、都市内の空き地は負の遺産というネガティブな見方がされてきました。しかし、雨水を浸透・吸収し、防災機能を果たすグリーンインフラとして考えると、そのポジティブな側面が見えてきます。
 例えば、中国の話ですが、スポンジという概念は都市の低密度化ではなく、雨水の吸収・貯留等を表し、「スポンジシティ」の建設が北京等の30都市で進められているとのことです。
同じスポンジでも国によって言葉の捉え方がこんなにも違うというのも面白いものですね!

 また、市街化区域内農地も従来は宅地化すべきもので言わば都市の発展を阻害する邪魔者扱いされていましたが、農地が緑地として持つ多面的な役割が見直され、2016年には法律も改正され、都市にあるべき貴重な緑地として位置付けられました。
今後は、都市内空き地を「コミュニティ緑地・農地」として整備し、「グリーンインフラ」としての機能を発揮させていくことが期待されます。

 ところで、インフラの語源のインフラ・ストラクチャーには、基盤施設といったハードだけではなく「組織の下部構造」というソフトに関する意味も含んでいて、インフラ(下部)を支えるストラクチャー(構造)全般を意味しています。
 私はダムというと映画「黒部の太陽」を連想し、厳しい大自然との闘いと勝利という人間ドラマが脳裏に浮かびますが、どうも従来のグレーインフラのイメージは自然をねじ伏せる、いわば自然との敵対イメージが強く、自然を活用したグリーンインフラとは相反するものと考えがちな気がします。
 しかし、このガチガチのコンクリートと柔らかい緑とは決して相性の悪いものではなく相互に補完しあうことも可能で、それぞれの長所を生かした適材適所の使い分けが肝要なのではないでしょうか?
 グレーとグリーンは、ファッションの世界ではとても相性の良いコーディネイトと言われています。
 自動車でもガソリンと電気の融合によるハイブリット車が世の中に普及したように、インフラの世界でもグレーとグリーンのハイブリッドな新次元のインフラ整備により、安全・安心で、より快適で美しく、より安く、よりハイクオリティーな生活環境が生み出されていくことを期待したいものです。

(文責:小町谷信彦)
2021年1月第2号 No.90号