土木の話題 21「社会資本メンテナンス時代の土木技術」

社会資本メンテナンス時代の土木技術

 コロナ禍が収束しない状況下、来年に延期された東京オリンピックの行方が気掛かりですが、首尾良く開催できれば前回1964年から57年ぶりとなります。
 前回大会の際は、国際都市としての体裁を整えるべく突貫工事で首都高速道路などの基盤が整備され、さらに高度経済成長時代から日本列島改造論を経て、首都東京のみならず日本全国のインフラ整備が飛躍的に進みました。そして、その当時整備された施設の老朽化が進んできました。
少子高齢化の問題が喧伝されてから久しい昨今ですが、実は土木構造物も一斉に高齢化の危機にあるのです。

 法隆寺は現存する世界最古の木造建築物として知られますが、その1300年以上の歴史を支えてきたのは伝統的に継承されてきた修理技術、すなわち宮大工の匠の技でした。数百年毎にすべての木材を解体し、傷んだ部材は取り換え、組み立て直す大修理のほか、屋根瓦のふき替えや日常的な点検、修繕が連綿と行われてきたそうです。住み込みの宮大工が代々技術を継承し、誇りと愛情を持って大事に守ってきたことが法隆寺の長寿の秘訣なのでしょう。

 さて、国土交通省は、冒頭で述べた社会資本の老朽化という現状に対して長寿命化を戦略的に進める「国土交通省インフラ長寿命化計画」を平成26年に決定し、メンテナンスの具体的な取組みを確定、見える化し、メンテナンスサイクルの構築に向けた道筋を提示しました。そして翌平成27年には「社会資本メンテナンス元年」という位置づけの下、省を挙げての取組をスタートさせました。
 その大きなねらいは、メンテナンス技術によるコスト縮減と予防保全による長寿命化を戦略的に進めることで、今後急増が見込まれるメンテナンスコストを中長期的にトータルで縮減するとともに経年コストを平準化する点にありました。
さらに、この長寿命化は社会資本の更新サイクルの延伸は土木材料の有効利用・廃棄物化の抑制により地球環境に優しいという効果も期待できるのですが、土木構造物の主要素材であるコンクリートの長寿命化はとりわけ重要なテーマとなっています。
それはコンクリートの原料のセメント1tを生産するのに約0.8tもの二酸化炭素を排出し、セメント生産が日本の全産業の二酸化炭素放出量の実に5~7%を占めるとされることから、二酸化炭素の削減、地球温暖化防止への効果が大きいからなのです。

 最近、オランダのデルフト工科大学のヘンドリック・M/ユンカース准教授の率いる研究チームが開発した技術を活用して、北海道のコンクリート会社 会沢高圧コンクリートが「自己治癒コンクリート」の量産技術を確立、商用生産を開始しました。
「自己治癒コンクリート」は、コンクリートにひび割れが生じた際にコンクリート自らが化学反応によりひび割れを閉ざすコンクリートで、これまでも自己治癒(修復)が起きるコンクリート材料の研究開発が進められてきましたが、このオランダの技術はバクテリア(細菌)の代謝機能を活用したという点でとてもユニークで画期的な技術でした。
どういうメカニズムかというと、コンクリートの中に「Basilisk HA」(バジリスクHA)というバクテリアを眠ったままの状態で入れます。コンクリートにひびが入り、そこから水と酸素が侵入するとバクテリアが目覚め、代謝(生命維持に必須の化学反応)が始まり、その結果、バクテリアから石灰石が排出されてひび割れを埋めていくという仕組みです。バクテリアが餌である乳酸を取り込み、排泄物として石灰石を生み出すという自然界の絶妙なメカニズムに倣ったこのメンテナンスフリーのコンクリート修復技術は、「サステナブルなインフラ整備」の見本と言えるかもしれません。

 さて、会沢高圧コンクリートは生物の持つ自己修復能力に着目したもののこの技術開発の裏には様々な苦労があったようです。日本国内ではセメントのアルカリ性に強い耐性を持ったバクテリアが見つからず、弱アルカリ性を好み、乾燥、高温・低温に耐え「世界最強の菌」とも言われる納豆菌でもうまくいかず、最後にたどり着いたのがヨンカース・チームの研究だったとのこと。このバジリスクというバクテリアは、乾燥すると休眠し高アルカリ環境に耐え200年まで休眠できるということで、まさにうってつけだったのです。

 たかがバクテリア、されどバクテリア!
 蜘蛛の糸は鋼鉄や高強度合成繊維に匹敵する強さを持ち、1cmの太さで張り巡らせば、計算上、飛んでいるジャンボジェット機をも捕捉できると言いますが、生き物の不思議な能力には驚嘆させられることがしばしばです。
 土木に活用できる埋もれた宝を自然界の巧みな仕組みの中からもっともっと掘り起こしたいものです。

(文責:小町谷信彦)
2020年11月第2号 No.87号