土木の話題 8「土木のフロンティアその3 ~海~ 」

土木のフロンティアその3 ~海~

浦島太郎は、竜宮城から戻ると夢から覚めて厳しい現実に引き戻されましたが、今や海中のパラダイスは、おとぎ話ではなく現実になりつつあります。
モルディブの高級リゾートホテル「コンラッド・モルディブ・ランガリ・アイランド」には、海面下5メートルの海中にガラス張りのレストランがあり、美しいサンゴ礁の中でまるで熱帯魚と一緒に食事をしている雰囲気が楽しめるそうです。そして、水上飛行機とスピードボートを乗り継いで行く海中バンガローの水中スイートルームもまさに竜宮城。
この究極のかくれ家は、お値段も1泊5万米ドル(税別)と究極ですが、人魚になった気分が味わえそうです。
また、フィジーの「ポセイドン・アンダーシー・リゾート」は、「ポセイドン(ギリシャ神話の海神)」の名にふさわしく水深12mの海底に建設されたホテル。数珠つなぎになった貝殻のような外観のラグーン(個室)の内部は、客室の他にスパ・フィットネスや図書館になっているそうです。

海は、何と言っても地球表面の7割を占める広大なフロンティアです。海中や海底だけではなく、海面の活用についても様々な開発構想が提案されてきました。
数年前、地球温暖化による海面上昇でキリバス等の大洋の小島が将来的に水没の危機に遭遇すると喧伝された際には、清水建設の深海未来都市構想「オーシャン・スパイラル」が話題を呼びました。未開発の海底資源として注目されるレアメタルの採掘と深層水を活用した養殖漁業を念頭に、水深3000~4000mの深海に資源開発工場を設置し、螺旋状のチューブで海面近くの球体居住区(直径500m、5000人収容)を結ぶという壮大な提案です。
ただ、この海上都市については、東京への一極集中が大きな社会問題となっていた1980年代に、住宅問題の打開策として東京湾でも居住人口10万人規模の構想が提案されましたが、時代は少子高齢化、人口減少という趨勢の中、社会的ニーズも変化し、台風に伴う高潮や地震に伴う津波などの懸案事項もあり、日本では話題に上らなくなってしまいました。

一方、海外では面白い動きが色々出ています。南太平洋のリゾート「タヒチ」が属するフランス領ポリネシアで「海上人工島」の建設が許可されました。米国の非営利法人が進めているプロジェクトなのですが、300人の居住空間を造り、経済特区扱いで様々な試験的な取組みを実施し、ゆくゆくは海上国家の建設を目指しているとのことです。
また、ドバイでは、海上都市ではありませんが、海に浮かぶ家「シーハウス」が開発され売れ行き好調とのことです。不動産屋さんのテリトリーは、陸上という常識は通用しない時代が来るのかもしれませんね。もっとも、海でも領有権を巡る厄介な問題が発生することは覚悟しなくてはいけないと思いますが。

さて、土木のフロンティアという視点から「海」の開発プロジェクトを概観してきましたが、最後に我が地元、北海道の話題、海底トンネルの話です。
北海道では、悲願だった新幹線が平成28年に津軽海峡を越えて函館まで開通しました。
しかし、現在の青函トンネルでは、一般ドライバーや貨物トラックが走行できず、津軽海峡はいまだに北海道にとっての最大のバリアーです。九州や四国が複数の道路ルートで本州とつながり、大動脈を人も物も健全に動いているのに、かたや北海道は心不全状態と言っても過言ではないでしょう。
単純な結論ですが、津軽海峡を道路で繋げる海底トンネル(第二青函トンネル)の建設が望まれます。財政など諸々の課題はありますが、津軽海峡のバリアーフリー化が、北海道が日本全体に貢献するための土台となり、「世界の北海道」実現への近道ともなることを信じて疑いません。

(文責:小町谷信彦)
2019年2月第1号 No.52