土木の話題 9「土木のフロンティアその4 ~空~ 」

土木のフロンティアその4 ~空~

 

最近、にわかに「空飛ぶクルマ(スカイカー)」が注目されています。 欧米のベンチャー企業などが相次いで試作品を発表し、予約受注を始めた会社もあります。

米国のベンチャー企業サムソン・モーターズの「ザ・スイッチブレード」は、車体の大きさは全幅1,800mm、全高1,500mmと一見するとトヨタ・クラウンほどの大きさ。しかし、飛行時には車体から飛び出しナイフのような翼が現われ飛行機に早変わりというスタイリッシュなスカイカーです。
報道によると、最高速度は地上走行時200km/h以上、飛行時305km/h以上という優れものです。飛行時の速度が300㎞/hというのは、小型飛行機の代名詞であるセスナや警察のヘリコプターの巡航速度が250㎞/h前後ですから、その性能がお分かりになると思います。既に2018年9月時点で800台の予約が入っているとのこと。ちなみに価格は、購入者が自ら組み立てるキットが12万ドル(日本円で約1,300万円)、完成品だと14万ドル(日本円で約1,500万円)と、車としては超高級車クラスですが、小型飛行機とかヘリコプターと思えば超お手頃と言えるのかもしれません。

さて、一言でスカイカーと言っても、そのスタイルはさまざま。自動車に翼を付けたようなものの他に、軽量飛行機に車輪を付けたタイプや大型のドローン、ヘリコプターもどきと多種多様。
自動運転での試験飛行に成功した米国ボーイング社の「空飛ぶタクシー」(定員2名操縦士なし)はドローンタイプ、オランダのベンチャー企業が開発した三輪の“PAL-V Liberty”はエレガントなイタリアンデザインの車体がフライトモードではヘリコプターに変身、一方、イタリアの「ホバークーペ」は車輪のないホバークラフト方式と言った具合に技術やデザインの個性を競い、まさに戦国時代の様相を呈しています。

では、自動車大国日本はどうなってるんだ?と思われたかもしれませんが、米国トヨタは2014年に「エアロカーのための積み重ね可能な翼」という「空飛ぶクルマ」のための特許出願をしているとのことです。これは、車体の上に4枚の翼を重ねて収納し、離陸・飛行時に展開する構造で、後部には垂直尾翼に相当する構造物が付けられています。
とはいえ、欧米の先行を許しているこの開発競争、日本も「負けてはいられない!」とばかり昨年、経済産業省と国土交通省が中心になって、「空の移動革命に向けた官民協議会」が設立され、「空の移動革命に向けたロードマップ」が策定されました。日本の追い上げにも期待したいところです。

さて、この「空飛ぶクルマ」、実用化すればすぐにでも災害時や救急患者の搬送など緊急輸送手段として活躍しそうですが、一般的に利用されるようになるためには、機体の安全性やコストの問題の他に、運転・操縦の免許、空の交通ルールの制定や発着場所、充電施設などのインフラ整備が必要となり、クリアーすべき課題は多くあります。 しかし、いずれマイホームの屋上から空飛ぶクルマで飛び立ち、自動制御で最短ルートを自由自在に使って目的地に行ける時代が来るのかもしれません。

1985年に公開された米国映画の名作「バックトゥザフューチャー」では、当時の車がタイムマシンに改造され、時空を飛び超えて1955年にタイムスリップしましたが、30年余り経過した現在、時空を飛ぶのはまだ夢の夢ですが、空を飛べる時代はもうすぐと言えそうです。

さらにその先は、地上から車が消えて、歩行者や自転車だけの世界になるのでしょうか?
そうなった暁には、明治初期に日本を旅した英国人旅行家“イザベラ・バード女史”が「東洋のアルカディア」と絶賛したような緑豊かなのどかな風景があちこちで再現できるのかもしれません。
もっとも、道路整備の仕事が要らなくなってしまいそうなことが気掛かりですが。

(文責:小町谷信彦)
2019年3月第1号 No.53