土木の話題51「デザインマンホール~観光への貢献」

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 「マンホールの蓋は、なぜ丸い?」 かつて米国のIT大手マイクロソフト社や外資系の戦略コンサルティング会社の入社試験で、発想力を問うために出題された問題です。
 その主な理由は、蓋がずれても穴の中に落ちないからですが、他にも、蓋をはめやすい、角がないので欠けにくい、転がして運びやすい等々、色々な理由が考えられます。中には例外的に四角のマンホールもありますが、普通、古今東西を問わずマンホールが丸いのは、こういう理由からです。

 そんなマンホール蓋、形が丸いからというわけではありませんが、昨今、全国各地の自治体から観光資源として注目されています。どういうことでしょうか?
 マンホールの蓋に、ご当地の名物をデザインした「デザインマンホール」が話題を呼び、観光資源として活用されるようになったのです。
 例えば、その土地ならではの文化や歴史にスポットを当てた、伊勢市(伊勢神宮)のお陰参り、木更津市(証城寺)の童謡『証城寺の狸ばやし』、横浜市(箱根駅伝)の東海道53次『戸塚宿』、花や動物の名所にちなんだ、熊本市の肥後椿、姫路市(白鷺城と呼ばれる姫路城)の鷺草、座間市のヒマワリ、高知市のニタリクジラ(「海の貴婦人」と呼ばれる鯨)、小笠原のイルカの親子、等々、地域色豊かなデザインマンホール蓋が各地で人気を集めています。
 また東京では、23区都下各市それぞれが、地域に縁あるアニメキャラクターをマンホール蓋にデザインし、正にアニメキャラクターが百花繚乱です。当社のご当地・札幌市では、主要観光スポットには雪ミクがマンホール蓋に登場します。
 さらに、これをカードにしたマンホールカードも、今や915種類(649自治体・団体)に達し、その勢いはまだまだ止まりそうにありません。地方の地域活性化の切り札として期待される観光に大きく貢献しているのです。

 さて、このデザインマンホール、このような大きなムーブメントはどのように始まったのでしょうか?
 実はその仕掛け人は、国土交通省下水道部の一人の中堅技術者でした。私も昔、町づくり系の勉強会でご一緒したことのある方なのですが、N氏が建設省(現・国土交通省)公共下水道課建設専門官の時に提唱したのがその始まりでした。下水道のイメージアップと市民の関心の喚起を狙いとして、メーカーに意匠を凝らしたデザインのマンホール蓋の製造を働きかけ、普及促進を図ったのです。この時、蒔いた種は大きく成長し、観光振興、地域活性化という実りをもたらしました。

 人々の目には入りにくい足元のマンホールですが、このようなアイディア次第で、そのポテンシャルを開花させることができました。とても大事な教訓を学べます。
 土木が造り出す様々なインフラの世界には、まだまだ埋もれた魅力が眠っているのかもしれません。
 それを目ざとく見つけ、市民の方々にお披露目していくことも、私達の大事な仕事かもしれません。

2025年10月第2号No.173
(文責:小町谷信彦)