橋の話題 8「古いけれど新しい橋 ポンヌフ橋」

「古いけれど新しい橋 ポンヌフ橋」

パリを観光された方の中には、ポンヌフ橋を懐かしく思い出される方もおられることでしょう。シテ島の先端をかすめてセーヌ川を跨ぐ、12のアーチからなる全長238m、幅22mの石橋で、パリで最も美しい橋と言われています。
「ポン・ヌフ」は、フランス語で「新しい(Neuf) 橋(Pont)」という意味なので『ポンヌフ橋』は「新しい橋橋」となってしまい少し妙な感じですが、パリで現存する最古の橋ということから、古いけれど「新しい橋」なのです。
この橋は、波乱万丈、37歳の若さで暗殺され短い生涯を閉じたフランス国王アンリ3世(1551年~1589年)の命により建設が進められ、40年近い歳月をかけて1606年に竣工しました。フランス語には「ポンヌフのように頑丈」という言い回しがあるそうですが、400年以上の長い歳月、「頑丈」に雨風に耐えて中世の姿を今にとどめています。

さて、ポンヌフ橋と言えば、絵画好きの方なら、この橋が窓から眺められるセーヌ川沿いにアトリエを構えたアルベール・マルケの雪景色や夜景のポンヌフ橋、あるいはモネ、マティス、ピカソの描いたポンヌフ橋を思い浮かべるかもしれません。
そして、フランス映画のファンなら『ポンヌフの恋人』の華やかな花火のシルエットとして、また、雪の舞うロマンティックな再会シーン等々、ポンヌフ橋の様々な印象的な情景が脳裏をよぎるのではないでしょうか?1991年の公開当時、レオス・カラックス監督によるアレックス三部作の三作目として日本でも評判を呼び、当時のミニシアター上映におけるロングラン記録を達成した名作ですが、映画製作は、ハプニングの連続でした。3年がかりの紆余曲折の末に完成しましたが、カラックス監督とヒロインのジュリエット・ビノシュとの実生活での恋人関係の破局という余談まで付いたので、「呪われた映画」とも言われているようです。当初から主演ドニ・ラヴァンの事故による怪我などで撮影が進まず、撮影期間は延びに延び、当初8億円の予定の製作費も膨らみ、保険会社の撤退や制作会社の2度の倒産などで資金繰りがショート。撮影の中断など、すったもんだで橋上での撮影許可の期限も切れ、やむなく夜の撮影用の簡単なオープンセットを実物そっくりに作り替えての撮影と想定外の展開に。その制作費用たるや大変なものだったことでしょう。ちなみに、この巨大なセットは、資金不足で取り壊しもままならず、今も殺伐とした湿地帯の中に遺跡のように佇んでいるそうです。

最後に、「芸術とは何か?」という問いを現代社会に突き付けた先鋭的な美術家クリストによる『梱包されたポン・ヌフ』についてご紹介しましょう。これは、9年かけて当時のシラク・パリ市長を口説き落として1985年に実現したポンヌフ橋全体を完全に布で覆うという壮大なプロジェクト。もしかすると、オーストラリアで高さ15m、長さ2kmの海岸を丸ごと梱包したり、ロッキー山脈の幅400mの谷に巨大なカーテンを吊るしたクリストからすれば、ダイナミックな迫力には乏しい小品に過ぎなかったのかもしれませんが、花の都パリの中心部での世紀のビッグイベント。2週間の会期中に300万人もの見物客が集まったということですから、世界中の耳目を集めると同時に多大な経済波及効果も生んだに違いないので、その芸術的評価はわかりませんが、イベントとしては大成功だったと言えるでしょう。
それにしても、橋の使い方もアイディア次第でいろいろあるものですね。(N.K)