この夏は、いつもと違ってとても暑い。といってもこれ、私個人の話なのだが。
一つは佐々木愛さん率いる劇団文化座の札幌公演が8月24日に迫ってきたが、その舞台は私の作品『流氷の海に女工節が聴える』を原作にしたものということ。
文化座とは今から40年も前、この作品を通じて知り合い、まだ健在だった愛さんの母、鈴木光枝さんの見事な演技に感動した思い出がある。
以来、いまも文化座とのご縁は続いているが、今回はその時と同じ作品の札幌公演なのだという。
遠い夢の世界にいたものが、再び呼び覚まされたような印象を受けて、痛く感激した。
思えばこの作品には、強烈な思い出が残っている。出版したのが昭和55年8月で、私はまだ地元のテレビ局勤務の身だったが、突然、文化座の鈴木光枝さんから電話を受け、舞台の上演が決まった。続いて映画会社とテレビ局から相次いで撮影の申し込みがあり、さらに高校演劇部の顧問教師からも舞台劇の話があり、腰を抜かすほど驚いたものだ。
文化座の舞台は2週間ほど続く東京公演の初日に観劇し、終演と同時に舞台に引き上げられ、強烈な光を全身に浴びて、呆然となった記憶が残る。
あれから長い歳月が流れて、同じこの作品が再び舞台になるという。91歳になった私は、表現できない高鳴る気持ちを抑えて、その日を待つことにした。
と、どうしたことだ。今度は札幌のとある高校の元教師から拙著『激動、昭和史の墓』の中の一部分を「大人も子どもも朗読会2025 北の百年風景」の朗読作品に用いたいので了承してほしい旨の連絡がきた。
朗読会は8月30日午後1時半から道立文学館で催され、朗読作品は4作品。私の本は今年出たばかり。自分の作品が見知らぬ中、高校生や社会人により、声を出して読まれるということに、不思議な思いを抱いた。
本を出版した時はいつも、どんな人が読んでくれるのだろう。どんな感想を抱くのだろうと思うのだが、今回は、読み手はきちんと読めるだろうか、つっかかるような部分はないだろうか、と妙なことが気になってならない。
当日が迫ってきた。今年の夏は、なぜか暑い。これまでにないホットな夏になる、などと思いながら、行って聞くべきか、行かざるべきか、いまだにふんぎりがつかないままでいる。
ノンフィクション作家
1934年、北海道空知郡上砂川町出身。佛教大学卒。
北海道新聞記者として道内各地に勤務。在職中からノンフィクション作品を発表。
主な作品は、『日本史の現場検証』(扶桑社)、『日本人の遺書』(藤原書店)、『龍馬、蝦夷地を開きたく』(寿郎社)、『松浦武四郎北の大地に立つ』(北海道出版企画センター)など多数。札幌市在住。