川の話題 2「地名の英語表記はおもしろい」

地名の英語表記はおもしろい

一時話題となった中国人観光客による爆買いは、最近は沈静化に向かっているようですが、アジア地域における「観光ビッグバン」を予測している専門家もいます。北海道でも、これからの経済活性化の柱としてインバウンドに注目して、外国人観光客の誘致が本格化しつつありますが、その取り組みの一環として、公共施設などの外国語表記が進められています。ところが、日本語の固有名詞を外国語で表現しようとすると意外な問題が生じるものです。
 川の名前について考えて見ると、例えば、関西の淀川。かつては、”Yodogawa River” と表記していたのですが、直訳すると「淀川川」になってしまい、おかしいということになり、ある時点から”Yodo River”に変更され、河川敷に立っている看板は新旧の2種類が混在しているのが現状のようです。そもそも、淀川の場合のようにどちらの表示方式が良いのかはケースバイケースで独自に判断されていたので、川名に限らず山や湖や寺社など、あらゆる地名、施設名について、この問題が生じていたのです。
そこで、日本地図作成の元締めの国土地理院(国土交通省の内部組織)が有識者を集めて地名等の英語表記の統一ルールづくりに着手し、平成28年に取りまとめたのが「地名等の英語表記規程」ですが、これが中々複雑です。基本原則は、日本名の普通名詞の部分、つまり川の場合、◯◯川の川の部分をRiver、山ならMt.、寺ならTempleに置き換える「置き換え方式」なのですが、原則通りに置き換えると元の地名が日本人に通じにくくなることもあります。こういったケースでは、普通名詞部分も残して、RiverやMt.を付加するという「追加方式」にしたのです。一例として、東京の荒川(あらかわ)の場合、「荒川区」等の居住地名としても使われ ”Ara River” では分かりにくいので ”Arakawa River” 、道内の川では、鵡川は、”Mu River” ではなく ”Mukawa River” といった具合。では、沙流川は、どちらのパターンだと思いますか? 正解は ”Saru River” です。
どうも、”Saru River” と言われると、「猿川」なんて見当違いの文字が頭に浮かんでしまい個人的な感覚としては “Sarugawa River” の方が良いのではと思ってしまうのですが、そこは体系的かつ緻密に整理された論理の世界なのです。もっとも、それが良くも悪くも「お役所的」なのかもしれませんが。。。
さて、もう少し適用例をみると、中川は “Nakagawa River” 一方、那珂川は“Naka River”、桜川も “Sakura River” 、霞ケ浦は“Lake Kasumigaura” 一方、 浜名湖は “Lake Hamana” 、月山は “Mt.Gassan” 一方 、剣山は “Mt.Tsurugi” と来て、おまけに四国の剣山も北アルプスの剱岳も “Mt.Tsurugi” と英語では同名表記だったり、ややこしいことこの上ないですね。
この複雑怪奇な世界に関心を持たれた方は、是非「地名等の英語表記規程」をネットでチェックして、このパズルの謎解きをしてみて下さい。
 ところで、我が国を代表する山と言えば誰もが富士山を挙げると思いますが、英語では “Fujiyama”。何故 ”Fujisan” ではないのか疑問を持たれた方も多いのではありませんか?
これには歴史的経緯があって、富士山が最初に外国に紹介された幕末の頃、横浜の外国人居留地の日本人が「ふじやま、ふじのやま、ふじのおやま」と言っていたのが由来で、現在使われている「ふじさん」は、明治以降に地図上の読み方として教育やマスコミを通じて広まった新しい読み方なのだそうです。同様に、珍妙な英語”Harakiri” も幕末には一般的な言い方で当時の外国の観光ガイドブックなどに掲載されて定着し、そのまま今日に至ったとのこと。
変な英語の代名詞にされている和製英語に負けず劣らず変な日本語と思われている米英製日本語の多くは、実は由緒正しき「古語」であり、当時の表現がそのまま残っているということなのですね。そのうち、”Saru River” が普通に使われるようになると今は思えませんが、どうなるのでしょうか?何百年後がちょっと知りたい気持ちになります。 (N.K)