道の駅の景観デザイン ~「道の駅みつまた」の事例~
東京大学
名誉教授 堀 繁

「道の駅」は国土交通省が整備を推進する日本独自の施設で、平成5年に103か所からスタートし、ドライブに欠かせない利便施設として、地域にしてみれば億の売り上げが見込める商業施設として、すぐに定着し、今や全国で1,154駅(平成31年4月末現在)を数えるまでになりました。しかし、増え過ぎた結果、利用者の選択がおこなわれ、近年は赤字の施設も増えてきて、「作れば儲かる」という時代は終わりました。
競争の厳しい中で道の駅が集客し、売上げを上げるためには、「①行ってみたい」、「②買いたい、食べてみたい」と誰もが思うように整備することが必要です。また、売上げは滞在時間に正比例することがわかっていますので、「③長くいたい」と思うように整備することも重要になります。
今回は、この①~③を意識し、景観デザインの手法を駆使して設計・整備した新潟県湯沢町の「道の駅みつまた」をご紹介します。

【「道の駅みつまた」の概要】 
所在地 : 新潟県南魚沼郡湯沢町大字三俣1000番地
開設年 : 2013年11月
主要施設: 農産物直売所、レストラン、温泉足湯、情報休憩コーナー、
駐車場(普通車13台、大型車3台、身障者用3台)、24時間トイレ
立地  :関東から新潟県への旧三国街道の玄関口、江戸時代には宿場町として栄えた

写真1 「道の駅みつまた」予定地

すぐ近くに三俣神楽スキー場がある日本有数の豪雪地帯です。写真1をご覧ください。集落の外れ、国道17号に面し、既存の日帰り温泉施設(赤線内の左半分)に隣接しています。右半分が道の駅の敷地ですが、当初の計画(図1)は国道に面して駐車場、施設を配したものでした。よくある道の駅です。このようであると、駐車場に降り立った利用者は施設に入るしかありません。施設に入れば商品を見るしかありません。商品を見ればやることがなくなり帰るしかありません。それでは滞在時間は長くなりません。そもそも駐車場と施設がただあるだけでは魅力にはならないので、商品力がなければ、今の時代人は来ません。
そこで、再検討しました(図2)。ずいぶん変えたので、少し解説したいと思います。

(図1) 当初の計画平面図

(図2) 変更後の計画平面図

駐車場を見て楽しい人はいないので前面駐車場を止め、温泉施設駐車場と一体が便利ということもあって、横と裏に回しました(写真2)。駐車場の代わりに前面には園地を持ってきました(写真3)。国道と敷地には1.5~2.0mほどのギャップがあり、国道のコンクリート擁壁が目立っていたので、擁壁側に目隠しの築山を作り、また、裏の川から水が引き込めたので池を掘り、堤や飛び石などで渡れるようにしました(写真4)。

(写真2) 施設裏の駐車場

(写真3) 施設前面の園地

国道と敷地には1.5~2.0mほどのギャップがあり、国道のコンクリート擁壁が目立っていたので、擁壁側に目隠しの築山を作り、また、裏の川から水が引き込めたので池を掘り、堤や飛び石などで渡れるようにしました(写真4)。敷地は狭いのですが池と築山の組み合わせを工夫して何とか収め、また、この園地を眺める場所として施設にデッキを付けました。デッキには足湯を設け、園地の魅力とし(写真5)、しかし冬が長いので、屋内にも足湯を設けました(写真6)。

(写真4) 飛び石を配した池

(写真5) デッキに設置した足湯

(写真6) 屋内に設置した足湯

ここで「道の駅」を少し解説させてください。道の駅は、本来、道路施設です。だから道路財源が投入されるのですが、道路施設である道の駅のもっとも重要な目的は、物販でも、飲食提供でもありません。ドライバーの心身の疲れを取って交通事故の未然防止に資する「休憩」を第1の目的としています。この休憩は「トイレ休憩」ではありません。疲れを取るためですから「休息休憩」で、それを担保する施設は「園地」なのです。園地をしっかり作って休息休憩を促進させることが道の駅では本来、重要なのです。しかも、魅力的な園地は人を引き付け、滞在時間を延ばし、それらは売上げに寄与します。つまり、地域が期待する売上げアップという観点からしても園地を魅力的に作ることは重要で、「休息休憩促進」と「売上げアップ」という、一見、無関係にみえる両者が、じつは園地をうまく作れば同時に達成可能なのです。お金を生まない園地を軽んじ、おざなりな整備のところが多いようですが、集客に苦戦していれば園地整備を検討してみる余地はあると思います。ちなみに、「(道路利用者への)情報発信」が道の駅の第2の目的で、第3の目的は「地域連携」です。本来、物販などは、この3番目の目的の、さらにその一部でしかないのです。

【道の駅の機能】 出典:国土交通省ホームページ 

話を「道の駅みつまた」に戻します。園地で集客すれば、後は売上げアップです。売上げは商品次第と思われているようですが、売り場のつくり方も売上げに影響します。行きと帰りの2通路だけを確保して狭く作ることが一つのポイントです(写真7)。施設は大きければそれだけ建設費も維持費もかかりますから小さく作るに越したことはありませんが、建物が狭いと空間密度が上がり、それが魅力となります。建物を大きくするより、園地にお金をかけた方が結局は売上げアップにつながると思います。なお、建物は三俣集落に取材して宿場の面影を演出し、中央で折ることで建物の圧迫感を薄め溜まりの空間をつくり、人を寄り付きやすくしました。
5年経ち、園地管理は若干異質なものとなってきていますが、道の駅整備の一つの考え方とみていただければ幸いです。

(写真7) 空間密度を高めた物販コーナー

東京大学名誉教授 堀 繁
1952年東京に生まれ、下町浅草駒形育ち。東大農学部林学科卒業後、造園職で環境庁に入り、阿 寒、日光公園でレンジャーを経験。環境庁自然保護局主査、東京大学農学部助手、東京工業大学社会 工学科助教授などを経て、平成8年3月より東京大学アジア生物資源環境研究所教授を22年間務め、平成30年3月に退職。平成30年4月より(一社)まちの魅力づくり研究会理事。
専門は、景観デザイン、景観工学、計画設計思想 史、地域計画など。国土審議会、歴史的風土審議会の他、山形 県、福島県、埼玉県の各景観審議会 など国、公団、地方公共団体の各委員会座長・委員等を歴任。地域の発展を前提とした景観、アメニ ティ、観光リゾート、自然環境保全の計画設計を中心課題とし、伝統的都市のデザイン規範に関する 研究、都市及び農山漁村の空間と景観の特徴に関する研究などを行う。 著書に、「景観からの道づ くり」、「景観統合設計」ほか多数。