公園の橋の景観デザイン ~「風に浮かぶ橋」の事例~
東京大学
名誉教授 堀 繁

一般的に橋は重たいイメージが強く、また、橋下の空間は暗く使い勝手が悪いことから、公園内に設置する橋は、景観的にも機能的にも取り扱いの難しい土木構造物と言える。
しかし、公園全体の設計の中で、この橋の持つネガティブな条件を景観デザインの手法とケースバイケースの現地条件に合わせた独創的なアイディアによりポジティブに転化することも可能で、橋を公園の周辺景観と調和させるとともに橋下空間を公園らしい休息の場とした橋梁デザインの事例をご紹介する。

「風に浮かぶ橋」  
所在地:山形県山形市健康の森公園内
設置主体:山形県
  形式: 3径間連続鋼製桁橋
  諸元: 橋長13.5m

1)公園の計画概要

山形県の健康の森公園は、山形市郊外の田園地帯に位置する面積10.5haの総合公園で、隣接する県立中央病院及び県立保健医療大学と景観的にも機能的にも一体となり、長寿社会や心身の健康とリフレッシュへの対応を考慮した、健康で快適な緑地空間として計画された。
そして、当公園は、病院の広い駐車場に隣接している他、西側に接してJR奥羽線が通っていることから、それらを公園内から視覚的に遮断することが計画・設計上の課題だった。
そこで、駐車場やJR線路に隣接する境界エリアは盛土して築山とし、両者を物理的かつ視覚的に分離し、築山上には眺望の良さを活かしたプロムナードを設けた。
また、コンセプトに沿ってペタンクなどの病人やお年寄りでも気軽に楽しめる軽スポーツのためのエリアと休憩・休息のための空間を計画し、機能の異なる両エリアを盛土による築山で分節した。

  山形県健康の森 公園計画図  出典:山形県ホームページ

2)「風に浮かぶ橋」の位置づけとデザイン上の課題

「風に浮かぶ橋」は、軽スポーツエリアと休憩・休息エリアの築山を繋ぐための橋で、デザイン上の課題は、①橋を軽く見せる、②橋下空間の活用 に集約された。

3)橋を軽く見せるためのデザイン

橋を軽やかに見せるためのポイントは次の2点で、そのためのデザインに注力した。
① 橋桁のフェイシアライン(見え掛かり)を薄く見せる
② 橋脚をスリムに見せ、存在感を薄める

そこで、①については、橋桁の断面を両端に向かってテーパーを付け端部厚を7cmと薄くし、高欄をグレー(弱い色)として透過性を高め、フェイシアラインがオレンジという配色のコントラストにより橋の横のラインを薄く感じさせる工夫を施した。
また、②に関しては、通常1径間で設計する橋長にも関わらず3径間とし橋脚の断面を細くし、強い赤の塗装によって強調し、さらに橋下に橋脚と一体化したベンチを設置することにより橋脚をベンチとして認識させる意味的転化を図った。

ベンチの背もたれを丸鋼の橋脚が支持。
背もたれ柱が切れる所に合わせて橋脚を白くして目立たなくしている点に注目。

4)「風に浮かぶ橋」の効用

「風に浮かぶ橋」は、平坦な敷地の公園であるにも関わらず周辺の土地利用との分離のために盛土したことによって必要となったもので、敷地を取り囲む盛土は、公園の領域を一体化すると同時に機能の異なるエリアを分節し、また、この橋は、盛土上に造られたプロムナードとともに公園での活動を一望できる視点場としても有効に機能し、多面的な効用を生み出している。
なお、敷地内を貫流する1級河川高瀬川の盛土堤防や南側の境界の一部をなす盛土構造の山形自動車道も各エリアを分節し領域を一体化する上で有効に機能する設計とした。

東京大学名誉教授 堀 繁
1952年東京に生まれ、下町浅草駒形育ち。東大農学部林学科卒業後、造園職で環境庁に入り、阿 寒、日光公園でレンジャーを経験。環境庁自然保護局主査、東京大学農学部助手、東京工業大学社会 工学科助教授などを経て、平成8年3月より東京大学アジア生物資源環境研究所教授を22年間務め、平成30年3月に退職。平成30年4月より(一社)まちの魅力づくり研究会理事。
専門は、景観デザイン、景観工学、計画設計思想 史、地域計画など。国土審議会、歴史的風土審議会の他、山形 県、福島県、埼玉県の各景観審議会 など国、公団、地方公共団体の各委員会座長・委員等を歴任。地域の発展を前提とした景観、アメニ ティ、観光リゾート、自然環境保全の計画設計を中心課題とし、伝統的都市のデザイン規範に関する 研究、都市及び農山漁村の空間と景観の特徴に関する研究などを行う。 著書に、「景観からの道づ くり」、「景観統合設計」ほか多数。