白樺街道
~泥流地帯の鮮やかな景観
 文・写真 秋野禎木

公開

 白樺は「高原の白い貴公子」と呼ばれる。冷涼な土地に広く分布するこの白い木肌の樹木は、周囲の緑とも、空の青とも鮮やかなコントラストを見せて、確かに「貴公子」という呼び名がふさわしい。道内にも多くの白樺林があるが、良く知られるものの一つが十勝岳の麓、美瑛町の中心部と白銀温泉を結ぶ道道966号の「白樺街道」だろう。観光スポットの「白銀青い池」に通じる道でもあり、多く人々の目を楽しませている場所だ。
 雄大な十勝連峰の眺望が楽しめるこの一帯は、1926(大正15)年5月の十勝岳の噴火で大規模な融雪泥流に見舞われた被災の地である。噴火による岩屑なだれが残雪を溶かしながら高速で流れ下る泥流となって山麓の集落を襲い、死者・行方不明者144人、建物の損壊372棟という甚大な被害をもたらした。人々の命も、労苦を重ねて耕してきた田畑も押し流され、緑は失われ、あたりは巨岩と泥に覆われた。

 その土地にも、やがて植物の種子が飛来する。茶褐色の世界で、最初に育ったのが白樺だった。この樹木は、荒れ地の植物の中で真っ先に成長する先駆植物。巨岩の横に芽吹いた幼木は遮るもののない土地で陽光を浴び、白い木肌の「貴公子」となって、一帯を鮮やかな色合いの世界へと変えてゆく。大正泥流から四半世紀後に白銀温泉が開かれたころは、見事な白樺林になっていたという。

 この景観が人気を呼び、温泉から道道沿いの約4㌔が白樺街道として整備され、遊歩道もつくられた。ただ、白樺の樹齢は80年ほどで、すでに自然の世代交代が進み、今はエゾマツやトドマツなどの針葉樹も多い。噴火という地球活動のうえに、時をかけて緑の営みが重なり、今現在の景観が広がっている。
 十勝岳の一帯は、「大地の公園」を意味するジオパークにも認定されている。大地と緑の営みの中にしばし身を置き、間近に美瑛岳を望む時間は、何とも贅沢なひとときである。

<交通アクセス> 住所:美瑛町白銀
【車】美瑛中心部から約20㎞
【バス】JR美瑛駅から道北バス「白銀温泉行」25分「不動の滝」下車徒歩3分

 

文・写真
秋野禎木(あきの・ただき)

元朝日新聞記者/現北海道大学野球部監督
1959年生まれ、北海道小平町出身