世界水準の観光地形成のために“土木”ができること
国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所
特別研究監・地域景観ユニットリーダー 太田 広

北海道の資源・特性を活かし、我が国が直面する課題の解決に貢献するとともに、地域の活力ある発展を図るため、国が策定する「北海道総合開発計画」。この計画では、北海道の強みである「食」と「観光」を戦略的産業として育成し、豊富な地域資源とそれに裏打ちされたブランド力など、北海道が持つポテンシャルを最大限に活用することにより、「世界の北海道」を目指しています。また、主要施策として「世界水準の観光地の形成」が掲げられ、「世界に通用する魅力ある観光地域づくり」、「北海道らしい良好な景観の形成」、「無電柱化や都市緑化による魅力的な街並みや景観の形成」、「良好な景観形成など観光振興に資する技術研究開発を推進」などを推進するとしています。
一方、観光立国の実現に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定する「観光立国推進基本計画」では、「世界が訪れたくなる日本」への飛躍を図るため、訪日外国人旅行者数を4,000万人にすることなどを目標に、「国際競争力の高い魅力ある観光地域の形成」などが位置付けられています。
このような観光立国の推進や景観の向上に関する社会的要請は、社会資本整備においても高まっていると考えられます。このため、国立研究開発法人土木研究所では、魅力ある地域づくりのためのインフラの景観向上と活用を支援する研究開発プログラムを現在進めている中長期計画に定め、観光地の魅力を高める公共空間のデザインとマネジメントに関する研究開発を進めています。

ところで、北海道が目指す「世界水準の観光地」、「国際競争力の高い観光地」とはどんな場所でしょうか。また、「世界水準の観光地」として国内外で認められている観光地にはどのような場所があるでしょうか。
たとえば、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の世界の観光地トップ3(2018年)を見ると、パリ(フランス)、ロンドン(イギリス)、ローマ(イタリア)がランクインしていますが、北海道と競合する観光地はおそらくこれらの都市とは異なると思われます。他方、たとえばスイスのツェルマットはアルプスを代表する観光地ですが、ランドマークとして極めて印象的な名峰マッターホルンを望む景観は、世界の観光客を魅了してやみません。そこには自然と一体となった街並み、マイカー規制により、快適な街歩きが楽しめる歩行空間、変化に富み、賑わいのある広場空間、そして、その先には、牧歌的な田園空間へと続くハイキングコースやフットパスが伸びています。豊かな自然環境をベースとし、北海道と競合する可能性のある観光地は、ツェルマットのほかにも、バンフやウィスラー(カナダ)、クイーンズタウン(ニュージーランド)など枚挙にいとまがありません。「北海道総合開発計画」が目指す「世界水準の観光地」、「国際競争力の高い観光地」とは、このような数ある国際的観光地の中から北海道が選好されるということ、そのような観光地になるという、とても野心的でチャレンジングな目標だと言えます。

パリ・シャンゼリーゼ通り

スイス・ツェルマット

さて、本論のテーマである、世界水準の観光地形成のために“土木”ができることは何でしょうか。たとえば、土木施設そのものが観光資源となるインフラツーリズムがあるかもしれません。しかし、ここでは観光地における公共空間、つまり、道路や街路、広場、公園、河川など観光地の基盤となっている土木インフラが観光地の魅力に及ぼす影響について考えてみたいと思います。

観光地の景観をよく見ると、大きく、前述の道路や街路、広場、公園等の屋外公共空間、ホテルやレストランを含む店舗、住宅等の建築物及びその敷地内のオープンスペース、そして、その背景となる自然景観や田園景観で構成されていると思います。建築物やその敷地は、基本的にはプライベートな空間と考えられますが、制度的に開放されている公共空地などのほかにも、店舗等がその敷地の一部を実態として一般に開放している例は時々みられます。また一方、近年では道路や河川等の一部が一定のルールのもとオープンカフェ等に利用されている例もみられるようになってきました。観光地に限りませんが、ヨーロッパ等の街では、広場や道路の一部に設置されるカフェ等が街並みに溶け込んで、賑わいや活気を生み出している風景をよく見かけます。このようにセミ・パブリック、セミ・プライベートな空間の境界が混じり合ったところに、魅力的な街並みが形成される、一つのカギがあるのではないかと思います。
私たちが研究対象と考える公共空間には、公共施設としての公共空間に加え、建築物外構などのオープンスペース(多くは私有地)などのセミ・パブリックな空間も含まれます。寒地土木研究所では、魅力ある観光地を形成する公共空間の特徴や条件などを明らかにしようと調査研究を進めています。これまでに、魅力的な観光地とそうでない観光地の現地調査や資料収集を行い、部分や要素の比較から、魅力的な観光地の公共空間に共通する“パターン”を導き出しています。ここでは、詳しい調査や抽出の方法、検証結果などは省いて、結果だけを紹介しますが、それらの“パターン“とは、1)観光客に散策や回遊を促す、屋外での過ごし方を提供している、2)観光地の魅力を強く印象つける象徴景が存在する、3)豊かな自然と街並みの一体感がある、4)景観に優れた適度な長さの散策路がある、5)散策や滞留の拠点となる広場がある、6)歩行者優先の街路空間である、の6つです。これらの“パターン“に観光地の魅力を高める公共空間の特徴や条件が備わっているのではないかと考えています。皆さんはどうお考えでしょうか。前段で紹介したアルプスを代表する観光地、ツェルマットの公共空間も、これらの“パターン”とよく合っていると思いませんか。

今後、これらの“パターン”を構成している個々の要素を精査することにより、公共空間のデザインとマネジメントの面から、観光地の魅力向上につながる公共空間の計画、設計、管理及びその活用に資する具体的な技術的知見を得ることにより、世界水準の観光地形成を“土木”の面から支援していきたいと考えています。
最後に本論のテーマですが、道路や街路、広場、公園等の公共空間が観光地の魅力に及ぼす影響が大きいことを考えれば、世界水準の観光地形成のために“土木”ができることは大いにあると言うことができます。

 

国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所特別研究監、地域景観ユニットリーダー
太田 広
1962年北海道生まれ
1988年京都大学大学院修了後、北海道開発庁(現・国土交通省)入庁
国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所技術開発調整監等を経て、2018年7月より現職
博士(工学)、技術士(総合技術監理部門、建設部門(都市及び地方計画))