土木分野のデジタル化について
北海商科大学 教授 田村亨(Tohru TAMURA)

1. 第4次産業革命、気候変動、そしてコロナ禍
 第4次産業革命と言われる、デジタル化やネットワーク化により「つながる経済」・「つながる産業」が、わが国の土木分野でも現れ始めています。例えば、インフラマネジメントにおけるCIM(Construction Information Modeling/Management)では、計画・設計段階から現場を3次元化して可視化することで、施工における事前のシミュレーションや、関係者間で認識を共有しミスの軽減や安全対策への的確かつ迅速な調整が可能となっています。モビリティの例として、2016年フィンランドに始まったMaaS(マース)は、2020年度の国の推進・支援事業だけでも全国38箇所で展開され、そこでは観光MaaS、まちづくりMaaSまでもが議論されています。2010年にドイツのインダストリー4.0戦略が目指した「ICTにより産業全体が効率化され、国全体が一つの工場のようになる」ことが、いよいよ現実味を帯びてきました。
 一方、2020年からのコロナ禍は、人々に不確実を超えた「未知なるもの」から自らの生命を守ることを強いらせるとともに、自然への畏怖の念を抱かせています。欧州や米国のみならず中国においても、経済の回復と地球環境の改善とを一体的に行う大規模な投資が計画されています。わが国では、出遅れていた第4次産業革命の取り込みをコロナ禍が後押しする形となり、大きな時代の変わり目を予想させています。

2. 土木のサービス産業化
 トヨタ自動車が2021年静岡県裾野市でウーブンシティの建設を始めたように、製造業のサービス産業化は世界の潮流となっています。ウーブンシティでは「まち」を構成するインフラの機能維持・向上をとおして人々の暮らしや経済を支えることが謳われています。ここでのインフラとは、産業基盤(道路、港湾など)・国土保全基盤(治水など)に生活基盤(公園・病院・学校など)を加えたもので、その大半は土木の範囲です。ここでは、デジタル化がコスト削減の手段としてではなく、利用者と迅速に結びつき新たな付加価値を生み出すツールと考えられています。
 中小企業が多い建設業において、人材不足とともにデジタル化への対応は焦眉の急と思われますが、それへの投資はなかなか進んでいません。国は、i-construction、無人化施工、国土デ-タプラットホーム、スマートシティ、自動運転に向けた道路施設整備などに力を注いでおり、推進の現場を担う地方自治体や建設業へのICT取組み支援を始めています。できるだけ人力によらないことを目指すデジタル化は、2024年度の時間外労働上限規制の適用を見据えた建設業の対策にもつながります。
 公共事業のサービス産業化の先進事例として阪神高速サイバーインフラマネジメントシステムの動画を見ると、「地域の守り手として現場力、技術力、組織力を持つ道路会社」と「個人情報のオープン化を許容する道路利用者」との協働で、暮らしや経済のレジリエンス(回復力)を高めてゆく未来の姿が描けます。

3. コロナ禍の中で対応すべきこと
 土木は人々の暮らしを支えています。この度のコロナ禍により我々の暮らしは一変しました。土木技術者として、コロナ禍前と同じインフラ整備を粛々と進めるだけでは、人々からの信頼を失いかねません。災い転じて福となすインフラ整備へと変えてゆくことが必要です。
 ここでは、今、土木技術者が実践すべき3つの行動を示し、本稿のまとめとします。それは、①直面する課題を解決、②ビジョンを作って実行、③未知に挑戦し真理を探求、です。
 直面する課題はコロナ禍から人と産業を守ることです。交通分野の先行例として、「自転車利用の増加に合わせて、自動車は全て時速30Km走行とし、やがて来る自動運転に繋げる」、「オープンスペースや道路を閉鎖して、レストランを開業しイベントを開催して人盛りを作る」ことが始まっています。いずれも、地域からの受容と規制緩和を伴う、現場からの運動です。
 中長期のビジョン作りでは、「近い将来に出現する社会システム」と「現状」とを連続的に繋いでゆくことが重要です。現状と将来との間に非連続が起これば、ICTを取り込めた会社が取り込めなかった会社を淘汰して統廃合が始まり、会社の中でも経営者と雇用者の対立が起こるといった悲劇を生むかもしれません。
 最後の、未知に挑戦し真理を探求することは、若い人を惹きつける魅力の源泉です。デジタルネイティブといわれる「Z世代(1990年代以降に生まれた人々)」を土木の世界に引き込むためには、新しい技術を積極的に受け入れて生産性向上を図ることが大切です。土木分野からの挑戦を大いに期待しています。

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MaaS(Mobility as a Service); 鉄道やバス、タクシー、カーシェアリング、シェアサイクリングなどの交通機関を一体的に捉え、出発地から目的地までシームレスな移動手段を検索・予約・支払いまで含め、個人が保有するスマホなどで提供するもの
ICT(Information and Communication Technology);情報通信技術

北海商科大学教授 田村亨 略歴
1955年札幌生まれ(66歳)
1983年北海道大学大学院工研究科修了、室蘭工業大学教授、北海道大学大学院教授をへて、2017年4月より現職。社会資本整備審議会道路分科会委員(国土交通省道路局)、国土審議会北海道開発分科会計画推進部会委員(国土交通省北海道局)、などの要職を務める。主な著書:土木計画学ハンドブック(分担:コロナ社2017)、交通社会資本制度(編著:土木学会2010)など多数。