社会基盤のメンテナンス・ストックマネジメント
北海道大学公共政策大学院
客員教授 高松 泰

1 社会資本ストックの現状

内閣府の経済財政モデル1)によると、我が国の社会資本ストックは927.7兆円、北海道では69.2兆と推計されています。北海道は、東京都に次いで都道府県別で第2位(表-1)。人口一人当たりで見ると、全国平均で約7.3百万円(北海道は12.8百万円)の社会資本ストックが地域の生活・経済活動を支えています。
社会資本ストックを都市系(住宅・上下水道・都市公園・廃棄物・教育等)、国土保全系(治水・治山・海岸)、交通系(道路・港湾・空港)、農林水産系の4分野に大別して図-1にまとめました。北海道は、都市系社会資本ストックの構成比が小さく、農林水産系や交通系の社会資本ストックの構成比が高いことが特徴です。

1)「都道府県別経済財政モデル・データベース(平成29年度版)」(内閣府経済財政担当)

2 インフラの老朽化

我が国のインフラは高度経済成長期に集中的に整備され、今後急速に老朽化することが懸念されます。今後20年間で、建設後50年以上経過する施設の割合は加速度的に高くなる見込みで、一斉に老朽化するインフラを戦略的に維持管理・更新することが求められています。
国土交通省は、平成25年に「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ、「社会資本の維持管理・更新に関し当面講ずべき措置」を取りまとめ、関係省庁連絡会議は、「インフラ長寿命化基本計画」を決定しました。そして、道路法や河川法が改正され、各分野における維持管理に関する制度の充実が図られ、個別分野ごとの点検要領・維持管理マニュアル・点検診断ガイドラインなどが策定されています。平成30年度には、5年に一度の法定点検が一巡することから、間もなくその全容が明らかになります。

道路橋を例にとると、定期点検結果を以下の4つの判定区分に分類して、橋梁毎の判定結果を公表しています。2)

区分 定義
健全 道路橋の機能に支障が生じていない状態。
予防保全段階 道路橋の機能に支障が生じていないが,予防保全の観点 から措置を講ずることが望ましい状態。
早期措置段階 道路橋の機能に支障が生じる可能性があり,早期に措置 を講ずべき状態。
緊急措置段階 道路橋の機能に支障が生じている,又は生じる可能性が 著しく高く,緊急に措置を講ずべき状態。

表-2 道路橋の判定区分  (橋梁点検要領、国土交通省より)

北海道と全国の橋梁年齢分布を比較すると、北海道の橋梁は全国に比べると約10年くらい若い(図-2)のですが3)、点検結果を比較すると判定区分Ⅲ以上の要修繕対応比率は全国よりも北海道の方が高くなっています(図-3)。

2)  国土交通省「道路メンテナンス年報」
3)  H26「北海道道路メンテナンス会議」資料

北海道と全国の橋梁年齢分布を比較すると、北海道の橋梁は全国に比べると約10年くらい若い(図-2)のですが、点検結果を比較すると判定区分Ⅲ以上の要修繕対応比率は全国よりも北海道の方が高くなっています(図-3)。

図-2

 図-3 判定区分Ⅲ以上の要修繕対応比率

H26「北海道道路メンテナンス会議資料」

北海道内の国道橋に関して、判定区分別に地図にプロットすると、図-4のようになり、海岸線付近や札幌市内付近に判定区分Ⅲの橋梁が多いことがわかります。

図-4                     図-5

GIS(地理空間情報システム)を使って、海岸(日本海・太平洋・オホーツク海)からの距離と要修繕橋梁の関係を分析すると、海岸線からの距離が近くなると要修繕橋梁の比率が高くなり、特に日本海側が顕著であることがわかります(図-5)。
道路トンネルでも、橋梁と同じように判定区分Ⅲ以上の要修繕トンネルの比率が全国に比べて高くなっています(図-6)。また、舗装の分野では、冬期の路面凍結問題や凍上、融雪期の泥濘化やポットホール発生など、積雪寒冷地域特有の過酷な環境下にあって、維持管理・補修が課題となっています。

  図-6 判定区分Ⅲ以上の要修繕トンネル比率

このように、インフラ老朽化を契機として進めらている定期点検の結果を考察すると、北海道のインフラは全国に比べて比較的若い状況にあるにも関わらず、判定結果は全国よりも悪い状況になっています。一般にインフラの劣化に関する要因としては、年数経過に伴う老朽化、自然環境に起因する劣化、交通量などの使用状況に伴う劣化が考えられ、維持管理を適切に行なうことによりこれらの状況が改善されます。北海道は、積雪寒冷地域で過酷な自然環境にさらされており、近年の自治体財政の緊縮等により維持管理に手が回っていないことなどが考えられますが、地域の経済や暮らしを支えるインフラにいては、今後、戦略的に維持管理・更新を行っていく必要があります。

 

3 インフラ・メンテナンスをめぐる社会環境

平成28年度から平成30年度までの3年間、北海道大学・北見工業大学・室蘭工業大学では、共同研究グループを設置して、政府が取り組んでいる「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」のテーマの一つである「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」4)  について、技術の地域実装を目指した取り組みを進めました 。

北海道大学では、SIP技術の社会実装に向けて、社会科学的アプローチによる地域実装のための政策課題検討等に取り組みました。パネルディスカッション等における議論結果をテキストデータに反訳、テキストデータ計量分析(テキスト・マイニング)を行い、政策課題として検討すべき社会的背景として「地域経済の動向」「人口動態(人口減少・少子高齢化)」「地方財政の動向」について論点整理を行ないました。

4) 内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」第1期(平成26~30年度)の課題

(1)地域経済の動向

一次産業を背景とする「食」関連産業、「観光」関連産業が、今日の北海道経済を牽引しています。道内6圏域の地域経済は、それぞれ特色ある産業分類構成となっており相互交易構造をなしています。各地域の相互依存関係は、物流インフラに支えられ活動構造・経済構造が活発化していると言えます。

特に、道東地方では対道外域際収支が黒字となっているなど、食料供給基地として国全体への貢献度が高いことがわかります。

(2)人口動態の動向

全国に先駆けて人口減少局面に入っており、少子化の進行が顕在化、進学・就職に起因すると考えられる社会移動により(相対的な)札幌一極集中が加速しています。農村地域では、農業大規模化による競争力強化が進んでおり農家一戸当たりの耕地面積等は増加していますが、集落消滅等に関する重大な課題は生じていません。2015年国勢調査では、北海道の人口約538万人は20,230個の1km2のメッシュに居住しています。図-9に過去20年間の密度別のメッシュ数推移を示していますが、大都市の高密度化と農業農村地域の低密度地域拡大が同時に進行していることが見てとれます。

(3)地方財政の動向

人口規模が小さな町村・人口密度の低い地域では人口一人当たりの総歳出額が高く、土木費支出額も大都市に比べて多い現状にあります。

近年、市町村の財政は厳しく、インフラ・メンテナンスを進めるにあたっても地方交付税等による財政調整機能は不可欠です。市町村が管理する地方公共財としてのインフラには、便益の及ぶ範囲が限定された地域だけではなく、地域を超えて他地域へ非競争的に波及が及ぶものもあります。便益のスピルオーバーと呼ばれるばれる効果で、財源負担を応益的に調整する制度として補助金や交付金を充てることには合理性があります。

なお、地方自治体の地方公会計に関して、統一的な基準による財務書類の作成を平成27年から平成29年までの3か年で整備することとなりました。地方自治体が保有している固定資産を評価して固定資産台帳や貸借対照表が作成されることから、公共施設の老朽化対策等において活用されることが期待されます。

(4)アセットマネジメント・システム

ISOは、資産(アセット)のマネジメント・システムとして2014年にISO55000シリーズを発行しました。ISO55000「概要、原則及及び用語」、ISO55001「要求事項」、ISO55002「適用指針」で構成されており、我が国においては2017年にJIS制定となっています。組織で有するアセットを、「コスト」と「リスク」と「パフォーマンス」のバランスを図りながら、ライフサイクル期間で最大の資産価値を生み出すことを目的としたマネジメント・システムです。既に下水道事業等での適用事例があり、今後、このようなマネジメント・システムの導入により戦略的な維持管理・更新に向けた取り組みが期待されます。

4 インフラ維持管理・更新・マネジメントを支える新技術

「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」では、様々な新技術の開発が行われました 。室蘭工業大学・北見工業大学では、新しい技術開発に関するデモンストレーションを行い新技術の普及に関する取り組みが行われました。

室蘭工業大学では、平成29年8月に国道37号室蘭市白鳥南高架橋P3橋脚で、SIP維持管理技術のデモンストレーションとして「二輪型マルチコプタによる橋梁点検」を実演しました。この技術は富士通株式会社が中心となり名古屋大学、東京大学、北海道大学、ドーコンによる共同研究体制による技術開発が進められてきたもので、人による点検が困難な箇所(高さの高い橋脚等)の画像を近接撮影するマルチコプタと点検データを様々な用途に活用可能な点検データ管理システムの開発を目標としたものです。

北見工業大学では、平成29年11月北見市にて、平成30年10月千歳市にて「モバイルプロフィロメータ(MPM)による路面評価」のデモンストレーションを行いました。モバイルプロフィロメータは道路舗装の平坦性(凹凸)を簡易に計測し、その成果を道路の維持管理等に活用することを目指しており、自動車の車体と車軸に加速度センサーを取り付け、道路走行を行い、短時間で解析してIRI(International Roughness Index、国際ラフネス指標)という値を測定するシステムです。

北海道大学 公共政策大学院客員教授 高松 泰
1977年北海道大学工学部卒業後、北海道開発庁(現・国土交通省)に入庁
    北海道開発局開発調整課防災対策官、国土交通省北海道局参事官、大臣官房審議官等を経て
2010年 国土交通省北海道局長
2012年  〃   北海道局長
2014年 北海道大学公共政策大学院特任教授
2017年より現職
2018年 公益財団法人ツールド・北海道協会常務理事