交通の話題4「交通とICT」

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 科学技術の発達は、移動手段としての交通を目覚ましく進化させました。
 1871(明治4)年に横浜を出航し米国サンフランシスコに向かった岩倉使節団は、太平洋を横断するのに約24日もの長い船旅を余儀なくされました。それが約80年後の1949年には、パンナムの定期航空路が開設され、プロペラ機のボーイング377が 東京からホノルル経由でサンフランシスコまでを約26時間で飛ぶようになります。さらにその10年後の1959年にはジェット機・ボーイング707が就航すると、ホノルルでの燃料補給という問題は残りましたが、最短15時間で太平洋を横断できるまでになったのです。それは最高速度約600㎞/h のプロペラ機、さらに約1,000km/h のジェット機と、次々と進む技術革新が成し遂げた業でした。
 蒸気船が10ノット/時(約18km/h)でゆっくり海を渡った時代とジェット機がその50倍ものスピードで飛び回る時代では、地球の大きさは物理的には変わらなくても、心理的にはどんどん小さく狭くなっていると言えるでしょう。明治の人々には果てしなく遠かった異国も、現代の私達には、その気になれば1日で飛んで行ける隣国です。もちろん海外旅行には言語の壁や経済的負担など障壁はありますが、LCC(格安航空)の普及で気軽に行ける環境は整ってきました。

 一方、映像やICTの技術の発達は、居ながらにして臨場感に溢れる鮮明な画像が楽しめるようになりました。時間とお金をかけなくても疑似体験ができるのです。
 通信の世界も交通と同様、海外通話が贅沢品だった時代など嘘のように、地球の裏側からでもほぼ無料の時代になりました。そしてそれを加速させたのが、2019~2021年にかけての新型コロナの世界的流行でした。外出自粛により、電子機器によるコミュニケーションが一気に活性化し、仕事でもテレワークやTV会議が急速に普及しました。

 では、人の移動に対して真逆の力が働く、この交通とICTの綱引き、今はどんな力関係になっているのでしょうか?
 例えば、国土交通省の令和6年度テレワーク人口実態調査によると、コロナ禍に伴って急速に広まったテレワークは、ピーク時よりは減少したものの全体の約25%で落ち着いているとのこと。具体的には、首都圏は約37%と高目なのに対して、地方都市圏では約17%と地域によって違いは大きいようです。
 またこの調査で、テレワーカーは、食事や飲み会の場所が勤務地の近くから自宅近くやオンラインに変化し、趣味や娯楽での外出頻度は多くなった、ということがわかりました。

 交通の技術革新と整備はリアルの世界の距離を縮め、ICTの技術革新と整備はリアルの世界の距離をなくす、と言えそうですが、いずれも私達のライフスタイルにも大きな影響を与えます。
 将来、私達の社会では、バーチャルな領域がリアルをどんどん侵食して広がっていくような予感がします。もちろん、ICTやバーチャル技術が私達の生活を一層豊かにするというメリットは高く評価しますが何事もバランスが大事です。個人的には、肌と肌のぬくもりが感じられるコミュニケーションや五感を通じて心躍らせる体験、そのようなリアルの価値も大事にする社会であって欲しいと思っています。
 そして、そのリアルを支える交通、そしてそのインフラの持つ価値についても、忘れることなく目を向けてもらいたいと願う次第です。

2026年1月第2号 No.177
(文責:小町谷信彦)