広場の話題 1「広場と建物 ~野幌駅前広場の場合~」

広場と建物 ~野幌駅前広場の場合~

ヨーロッパに行かれた方は、よくご存じだと思いますが、古くからの町の多くには、中心部にシンボリックな高い尖塔がそびえる教会があり、その前にはまず例外なく広場があって地元住民や観光客で賑わっています。
日本の場合、町の中心施設は、教会ではなく、お城や神社、お寺というのが、江戸時代までの定番で、明治の近代化以降は、鉄道の駅がこれらに替わって主役となりました。
しかし、モータリゼーションの進展とともに鉄道の位置づけが低下し、特に地方都市では、駅周辺の旧市街地が衰退し、新しい住宅地に近接し、かつ車による利便性の高いエリアに町の中心が移りました。そして、近年は、人口減少に対応したコンパクトなまちづくりという観点から、鉄道駅の役割が再評価され、駅と駅前広場の再整備を起爆剤として駅周辺エリアを町の中心的な拠点にしようという取組みが各地で盛んに進められています。
そして、弊社の地元、江別市においても、野幌駅周辺を江別の中心とするべく「江別の顔づくり」が重点的に進められています。JRの高架事業による野幌駅舎のリニューアルに併せて駅周辺エリアを区画整理事業で再整備しようという取組みで、平成26年に北口駅前広場が完成。現在、南口広場の整備が進行中ですが、どちらの広場も弊社が施工を請負い、江別市のまちづくりのパートナーとしての役割を果たしています。

 

野幌駅舎と野幌駅北口広場

野幌駅南口広場完成イメージ図

ところで、皆さんは、ヨーロッパの有名な広場に世界中から観光客が集まるのは何故だと思いますか?
もちろん、歴史のある壮大で華麗な建築物の魅力や広場で開かれているマルシェ、蚤の市の賑わいなど、様々な要因が考えられますが、広場の持つ心理的な居心地の良さも一因ではないでしょうか。今から百年以上前に、広場の大きさと周りの建物の高さとの関係が、広場にいる人が感じる圧迫感や囲まれ感といった印象を左右するという研究成果が発表されました。メルテンスの法則として知られる景観分野では有名な古典的研究なのですが、今ならサッカーの話だろうか?と勘違いする方もいるかもしれませんね。
これは、心理実験の結果、建物とそれを見る人との距離が、建物の高さよりも近いと圧迫感が強まり、まるで密室にいるかのような恐怖感を与え、逆に建物の高さの3倍以上離れると建物に囲まれている感覚がなくなる、そして、建物の高さの2倍程度離れた位置が建物に囲まれ落ち着いた印象を与え、また、建物全体を視野におさめ、気持ちよく眺められるということがわかったのです。つまり、広場の大きさと周りの建物の高さとのバランスが大事だということなんですね。
これに関連して我が国の景観研究の第一人者である堀繁氏(東京大学名誉教授)が興味深い説を提唱していますので以下にご紹介します。
堀氏によれば、「私達は、目に映るすべてを等しく見ているわけではなく、何の景観なのか手掛かりを与えてくれるもの(見たいもの)と程よい大きさで見ることができるもの(見やすいもの)を見ている。程よい大きさとは、見込角(見る対象物が占める視線の角度)が10°~20°で見えるもの」で、腕を目の前に伸ばし、手をグー(見込角10°)とパー(見込角20°)にして、グーとパーの間に見たいものが入っているかどうかで、「程よい大きさ」かどうかが簡単にわかるとのこと。

では、皆さんも観光スポットに行って、お目当ての建物や山を見る時に試してみて下さい。何をやっているんだろうと周りの人からは、けげんな顔をされるかもしれませんが、みんなでやれば怖くありません。
ちなみに、野幌駅の北口広場で駅舎に向かってグーパーチェックをしたところ、広場の大方の場所でテスト合格!あとは、広場の周りに建物がきれいにそろい、広場の風格と賑わいが熟成するのを待つばかりです。
このグーパーチェックをするためにも、ぜひ野幌駅北口広場に!

(文責:小町谷信彦)
2018年11月第1号 No.43