土木の話題52「ネイチャーポジティブと土木事業」

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 ミラノ・コルティナ2026年オリンピックのフィギュアスケート「りくりゅうペア」の逆転金メダルは日本中を感動の渦に巻き込みました。そして「諦めずにポジティブ」という言葉に励まされた人は多かったことでしょう。ネガティブな空気が漂い、将来の希望を見失いがちな現代、ポジティブという言葉は心に刺さります。

 昨今、環境問題に関しても「ネイチャーポジティブ」という言葉をよく耳にするようになりました。
 これは「自然再興」と訳され、自然生態系の損失を抑え回復させるために、生物多様性や自然資本の観点から社会・経済活動による自然への負の影響を抑え、プラスの影響を与えることを意味する新しい概念です。
 つまり、自然を人的資本・社会資本と並ぶ三番目の資本として捉え、これまでの「自然との共生」という枠組みを超えた経済的・社会的アクションを求めるものですが、その背景には、地球温暖化を始めとする地球環境問題が待ったなしの危機的状況という認識が深まったことがあります。

 少々古いデータですが、自然破壊を象徴的に示すデータが平成21年度の環境白書に掲載されていましたが、なかなか衝撃的です。それは、生物多様性の指標となる生物の絶滅種数の推移なのですが、世界に存在する生物種は推定3,000万種、そのうち知られているのは約35万種で、1900年~1975年までの75年間にたった1種だった絶滅種が、1975年以降は、1年間に4万種と急ピッチで絶滅が進んでいるというのです。
「そんなことは自分には関わりのないこと」と思われますか?
 実はそうではないのです。多くの生き物が絶滅するということは、それだけ私達の周りの環境が悪化し、生活を脅かしつつあるということ。つまり、地球温暖化の防止と生物多様性の維持は、車の両輪とも言える関係なのです。

 

生物の絶滅種数の推移(出典:平成21年度環境白書)

 では土木事業は、このネイチャーポジティブとどう向き合う必要があるのでしょうか?
 そもそも土木事業は、自然が相手で、「土木」という言葉自体、「土」と「木」です。その言葉の由来は8世紀頃の中国に遡り、日本では紀元前5世紀以降の中国の書にある「築土構木」(人々の暮らしを安定させるために土を築き、木を組む)から取られたという説が有力です。ちなみに、日本では土木分野だけを指して使われていますが、中国では建築も含まれているそうです。
 いわば土木は「自然の中で人間が生きるための環境を整えるための技術」で、治水や地形を改変して、その土地に合った様々な生活環境を作り出す技術として発展してきました。しかしこの人間の業は、その昔は広大な地球に微々たる足跡を残すに過ぎませんでしたが、今や地球環境に及ぼす負荷は気候を変えるまでに拡大してしまい、ネイチャーポジティブな自然との付き合い方が喫緊の課題となったのです。
 土木事業は、これまでもSDGs、カーボンニュートラル等々、様々な視点からの取組が求められてきましたが、ネイチャーポジティブは、これらとも密接に関わり、相乗効果を生み出していく重要な取組と言えます。
 では、土木事業において今、何ができるのでしょうか?
「人と地球にやさしい土木事業」のさらなる進化を目指し、新たなスタートを切りましょう!

2026年2月第1号 No.178
(文責:小町谷信彦)