わたしの市街地再生論 国立研究開発法人土木研究所 目黒聖直

北海道の人口数千の小さな市町村の市街地を歩くと、正直に感想を漏らすならば、ゴーストタウンにいるかのような錯覚に囚われます。古ぼけた建物が並ぶ通りには、朽ちて廃墟のようになった構造物も混在しており、時折、その通りを思い出したように自動車が行き交うものの、歩行者の人影を見つけることは難しいような状況です。
市街地が衰退すると、街並みと呼ばれる風景が劣化するだけでなく、店がなくなり、金融機関がなくなり、バス停がなくなり、と、人々が生活をしていく上で大切な機能がどんどん失われていきます。市街地がなくなるというのは、地元の人が一か所に集まれる場所がなくなるということでもあります。だからこそ、市街地の再生が求められます。それは、地域の再生そのものと言ってもいいかもしれません。

市街地の再生のためには、巷間、コンパクト化とか機能の集約化とかいったことが説かれますし、それ自体は百パーセント正しいと思います。しかし、機能を集約した好例とされる岡山県新見市のきらめき広場哲西(てっせい)を訪れたとき、そこに殆ど人がいないことに私は驚きました。役場窓口、保健福祉センター、診療所等が入居したこの施設は、日曜日ということで図書館を除いて休業だったために閑散としていたのです。休みの日に限ったこととは言え、これでは人の集まる施設になっていないのです。
つまり、多機能化は結構なのですが、何かが足りない。実は、一番大切なことは、その多機能施設の核としてスーパーを入れるということなのです。寂しい市街地であっても、そこ唯一のスーパーを訪れると、店内では多くの町民が買物をしている、というのはよくあることです。平日でも休日でも、街で一番人が集まる場所はスーパーなのです。ということは、スーパーに他の機能も併設することで、人々が滞留する賑わいのある施設が生まれるはずです。さしあたり、地元の個人商店や飲食店をテナントのような形で同居させて、ちょっとしたショッピングセンターのような形を目指すのがいいと思います。そこには、地域の人々がゆっくりと滞在できるような広いパブリックスペースも必要となりましょう。
一方、道内に限らないのですが、小さな集落や町において、そこに残った唯一のスーパーが閉店に追い込まれ、経営を引き継ぐ店も見当たらないことから、買物難民を防ぐため、住民が直接経営を引き受けたり、役所が経営に乗り出したりする事例が聞かれ始めています。遠慮なく申せば、そうなってからでは遅いのであって、そうなる前に、上述のようなミニ・ショッピングセンター風の建物をつくっていくことが重要なのです。
この建物は、街の中心となり、人々で賑わう場所になるわけですから、間に合わせの仮設建築ではなく、街のランドマークともなる立派な建物であることが求められます。店舗を入居させる際も、たとえば地域の人たちが町内には現存しないお菓子屋を欲したので、札幌のケーキ屋で働いている地元出身者を呼び戻す、といったことがあってもいいと思います。店舗以外に図書館や診療所などの併設もありえましょう。
建物の一画をバスセンターとすることも考えられ、その場合、ここが重要な交通結節点になりますから、周辺道路の整備が必要になります。ちなみに、道路と言えば、併せて、アカプラ(札幌市北三条広場)が元は車道だったように、部分的には車道を広場や歩行者専用道路に転換することも検討すべきでしょう。それによって、より多くの人が集まる場になるに違いありません。

以上を要するに、① スーパーを中心に複数の施設が入居した多機能の建物を建築することで、住民が集まり滞留するような街の中心を形成する(機能面)、② その建物は街の顔となるような見栄えの良いものとする(景観面)、ことで、その限られたエリアだけであるにしても市街地の再生を図ろう、ということであります。
数千人の小町村というわけではありませんが、最近、陸前高田市の震災後の新市街地に、スーパー、専門店街や市立図書館等が一箇所にまとまったアバッセたかたが誕生しました。私自身は未訪問ですが、専門店街にはツルハ等の全国チェーンもあるとはいえ、複数の地元店も入居しており、先に私が述べたイメージに近い施設となっているようです。
もし、述べているような建物が道内の各地でつくられることになれば、全体では相当の事業量になるはずです。建築部門だけでなく、周辺道路や駐車場、広場の整備によって建設業の土木関係の方々にとってもそれなりの仕事が生まれるのではないでしょうか。そういう意味で、日ごろから地域に根差した活動を続ける道内建設業各社の方々にも、このような建物の実現に向け、関心を持っていただきたいと願っています。
田舎に新しい建物なんて、とてもムリ、なんて言わないでください。島根県益田市の駅前複合ビルEAGAを見てみるといいと思います(インターネットでもhttp://r.goope.jp/eaga 等で見られます。)。益田市は人口が5万人弱ですから、北海道であれば大きな市に見えるかもしれませんが、全国の基準で言えば小都市です。それでも、十階超のビルを核とする超近代的な建物群をつくることが全然夢ではないことをこの例は示しているのです。同様に、小町村であっても、小さくとも、全面ガラスのファサードや開放感溢れる吹き抜け空間をもった町自慢の建物ができないことは決してないはずなのです。

                  

国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所監査役 目黒聖直 略歴
1962年札幌生まれ
1985年北海道大学法学部卒業
民間企業を経て、1989年北海道開発庁(現・国土交通省)入庁
在スウェーデン日本国大使館一等書記官、国土交通省大臣官房地方課企画官、同九州地方整備局広報広聴対策官等を経て、2017年6月より現職
本稿での考え方は、2015年にまとめた「北海道の小町村の維持・発展のために」においても詳しく展開