これからの道路整備 北海商科大学 田村亨

2017年8月22日、今後の道路政策を検討している社会資本整備審議会道路分科会は、「道路・交通イノベ-ション」と題する建議をまとめました。近年の建議の意義は、納税者に真に必要な道路整備を示し、国民からの信頼と負託を前提とした整備を進めることです。新しい建議の冒頭では「国民一人ひとりにとって、ややもすれば日常生活において意識することすら無い『道路』という我々の活動を支える根幹的なインフラについて、その機能向上や利活用について共に考えることで、他人事ではなく『自分事』として受け止めるきっかけ」にして欲しいと、作成目的を強調しています。

強調する理由は、今後の交通社会資本整備に2つの制約があるためです。ひとつは人口減少による需要減であり、他のひとつは財政制約です。交通需要の減少について、地方部の鉄道衰退はこの点から避けがたいものといえましょうが、道路は基礎的社会基盤としてむしろ需要が高まっており、人口減少による需要減少は小さいのです。もうひとつの財政制約を公共事業関係費の推移からみると、1998年度の14.9兆円を最高に、以降減少しており2017年度は6.3兆円と約4割に減少しています。経済縮小・人口減に伴う歳入減、社会保障費の増加、名目国内総生産の2倍強に達する公債残高など政府の財政制約はますます厳しさを増し、今後必要とされる道路の維持管理・更新投資に対する圧力を高めることになるでしょう。

ところで、道路をはじめとするわが国の社会資本整備は、これまでに構築してきたその蓄えを活かして、持続的で環境にやさしい社会資本へと再整備する時代に入りました。このため、社会資本の設計、施工、維持管理、マネジメントのあり方も大転換する必要があります。具体的には、国民の価値観が“モノの豊かさ”から“心の豊かさ”を重視する方向へ変わってきています。社会資本に対する国民のニ-ズも、わが国の国土や地域が本来有してきた風土、伝統、文化から生成される良さ、美しさを取り戻すことを求めています。今後、わが国では、人口減少によって低利用な社会資本が生じてきます。そこで、社会資本の機能や資産価値を改めて評価し、適切と認められた場合は、社会資本の撤去や他用途への転用を行って、そこで新たに生まれた空間に自然や景観を回復することも重要となってきます。その一方で、地球規模での気候変動や激甚災害の多発等に対応するため、これまで日本人が災害と共生してきた中で育んだ“災害文化”を再認識する必要もあります。

これからの社会資本の整備を長期的に睨みつつ、2017年の建議における新たな提案は2つあり、それは施策の「進め方」に関することです。ひとつは「進展する情報技術」を道路整備に活用して、国土の強靭化、地方創生、観光立国等の実現行うことです。具体的には、地方部の公共交通サービスの低下を解決するために自動運転技術の徹底的な活用であり、子育て層や高齢者の移動支援、観光地等における回遊性向上、ドライバ-不足を補う物流システムの構築、道路交通の耐災害信頼性の向上です。もうひとつは「多様な主体との連携」です。地方部を中心に地域を善くしたいという人々の能動性は高まっています。地域が主体となって住民の意見が分かれる中で一つのシナリオを決め、多様な人々が連携して計画を実践することが求められています。道路政策においても、例えば地方部にある生産空間と空港・港湾とのシムレスな連結、道の駅など既存施設の賢い使い方が望まれています。

最後に北海道の道路整備について述べます。全国には2500Kmの未完成の高規格道路区間があり、そのうちの約30%である700Kmが北海道にあります。いかに速く、このミッシングリンクを繋ぐかは北海道の喫緊の課題でありますが、本州における「造った後どう使うかという時代」を先行して、使いやすい道路を造れないものでしょうか。また、地方創生が求められている地方部においては、地域活性化に資する道路を造っていくべきでしょう。例えば、2017年12月11-16日、北海道大樹町において「道の駅、コスモ-ル大樹」を拠点とした自動運転バスの社会実験が行われました。「スピード感と現場感覚を持って、進展する技術革新を取り込んだ道路を整備すること」や「地域が本来有してきた風土、伝統、文化から生成される良さ、美しさを取り戻すための道路空間づくりを多様な主体との連携で実現すること」が重要であり、このような新しい道路政策を北海道から先導的に進めてゆくことが強く求められております。

北海商科大学教授 田村亨 略歴
1955年札幌生まれ(63歳)
1983年北海道大学大学院工研究科修了、室蘭工業大学教授、北海道大学大学院教授をへて、2017年4月より現職。社会資本整備審議会道路分科会委員(国土交通省道路局)、国土審議会北海道開発分科会計画推進部会委員(国土交通省北海道局)、などの要職を務める。主な著書:土木計画学ハンドブック(分担:コロナ社2017)、交通社会資本制度(編著:土木学会2010)、社会資本マネジメント(分担:森北出版2001)など多数。