道の話題 8「映画の舞台としての道路 ~ロードムービーあれこれ~

映画の舞台としての道路 ~ロードムービーあれこれ~

「星を守る犬」という西田敏行が主演で2011年公開の映画はご存知でしょうか?
この映画は、元々の原作は漫画の村上 たかし。それをさらに小説(ノベライズ)にしたのが小説家の原田マハ。小説の冒頭にはこんな言葉があります。『ほしまもる犬【星守る犬】 犬が星の物欲しげに見続けている姿から、手に入らないものを求める人のことを表す。』
原作の漫画の中でも語られるこの言葉。なんとも考えさせられますね。

北海道の山中に放置されたワゴン車から西田敏行扮する身元不明の中年男性と犬の遺体が発見されるシーンから始まるこの映画、発見現場の市役所でこの事案を担当した青年とたまたま道行きとなった少女が、このイヌ連れ中年の足跡をたどって東京から北海道まで車で旅する物語です。あらすじだけ聞いた方は、悲しい人生の末路を描いた絶望的な映画をイメージするかもしれませんが、ラストシーンは悲しく涙を誘うものの、白い柴犬“ハッピー”の名前のように楽しくて面白いシーンが満載の映画です。
このように車での旅の道中に様々な出来事が展開していくというスタイルの映画を一般的に「ロードムービー」と称しますが、北海道はロードムービーには、うってつけの舞台と言えそうです。
私の好きなロードムービー「風花」でも、北海道の情景がふんだんに登場します。俳優に自由に演じさせる独特の映画作りとそれとは裏腹に怖い監督としても知られた相米慎二監督の作品なのですが、この相米組の親分、2001年の公開後、わずか8ヶ月で52歳という若さで急逝しましたので文字通りの遺作です。個性派俳優の浅野忠信が恋人に去られリストラされた男、そして小泉今日子が絶望の淵で自暴自棄になった風俗嬢という役柄で、ひょんなことから一緒に北海道へ行くことになった二人が旅を通じて人生の希望を取り戻すという話です。増毛、オホーツク、大雪山等々、道内各地が映し出されましたので、もっとヒットすれば北海道観光の振興に一役も二役も買ったのですが。

最後に、洋画も一作ご紹介しましょう。今や古典に属するのかもしれませんが、1973年公開の米国映画「スケアクロウ」。前年公開の「ゴッドファーザー」で一躍ハリウッドのスターダムに駆け上ったアル・パチーノとスーパーマンの悪役で鳴らしたジーン・ハックマンという絶妙のコンビが、波乱万丈のヒッチハイクの旅を演じました。当時、まだ学生だった私もヒッチハイクの気ままな旅に憧れ、国鉄の周遊券を片手に北海道の各地を巡り歩き、時にはヒッチハイクで長距離トラックの助手席に乗せてもらったりした時代です。今思えば古き良き時代、青春の思い出です。

道路は、「前を向いて進む」とか「道の先に広がる新しい世界」といったポジティブな未来志向のイメージを潜在的に持っているように感じます。ちなみに、「星守る犬」の公開前のPRポスターのキャッチコピーは「望み続ける先に、きっと希望があると思う。」でした。
ロードムービーが時代を超えて人々に愛されるゆえんは、道が醸し出す未知の世界、将来に対する希望なのかもしれません。それと同時に、ひょっとすると「手に入らない何か」もあることを表しているのでしょうか。
     (文責:小町谷信彦)
                          2018年6月第2号 No.28