計画・設計事例の比較からみた日本の「道の駅」と欧米の沿道休憩施設の違い
国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所 地域景観チーム 上席研究員 松田 泰明

1.はじめに
「道の駅」は、1993年より広く全国に整備され、現在1,180駅1) (2020年7月)を数えます。今では、ドライバーへの快適な休憩サービスの提供だけでなく、地域振興の重要な施設ともなっています(写真-1)。また、制度発足から四半世紀が経過する中、近年は多様なニーズに対応した機能の充実や施設の規模も拡大し、増設や改修が行われる事例も多くあります。さらに、当初は温泉や物産館など既存施設を「道の駅」に活用していた施設を新たに「道の駅」として建て替える事例も増えています。

写真-1 安全で快適な休憩の提供や沿道の地域振興が目的の「道の駅」。今や国民的社会インフラともなっている。

 他方、機能や安全性、魅力が十分でない「道の駅」や、想定した利用のされ方とはなっていない事例もみられ、筆者らの調査2)でも確認しています。
 このことにはいくつかの原因があり、初期の「道の駅」にみられる既存施設活用型の事例のように、そもそも立地環境や施設の仕様が「道の駅」としては適切ではない事が挙げられます。その他に「道の駅」ならではの特徴もその原因です。たとえば、ハードとソフト両面において独自性が強く求められることや、他の公共施設とは様々な点で異なること、また計画や設計に関して直接参考となる技術資料もほとんどない事などが挙げられます。このため、自治体や設計技術者は「道の駅」の計画や設計に苦慮している現状もあります。
 しかし、目を外に転じれば、沿道の休憩施設は海外にも多く存在し、機能性が高く観光振興に貢献している魅力ある施設も少なくありません(写真-2)。

写真-2 雄大な自然景観に調和したノルウェーの沿道休憩施設 (The Scenic Route Section in the Norwegian Public Roads Administration, Norwegian Scenic Routes)

 そこで、筆者らは「道の駅」の計画や設計技術の向上による地域振興への貢献のために、欧米豪の沿道休憩施設の整備事例やガイドラインの調査分析3)を行っています。本稿ではこれまでの国内の「道の駅」の事例調査とこれら海外の事例調査の比較から「道の駅」の計画や設計上の課題や参考となる知見について、研究成果の一部を紹介します。

2.欧米豪の沿道休憩施設の事例調査
 調査対象は、①ロードツーリズムの盛んな国や地域にあること、②受賞実績があるなど優良事例にあたる施設、③資料の入手が容易な概ね10年以内に整備された施設とし、これらの条件を考慮して、欧州・北米・大洋州を主な調査対象にWeb情報から調査を行いました。その結果、有用な情報を得ることができた米国6施設、ノルウェー2施設、英国と豪州各1施設の計10施設を調査対象としました。
 調査項目は、立地環境や設計コンセプトの他、駐車場、園地、休憩所などの施設やその配置、バリアフリーや環境対応などを主なものとしています。なお、海外事例については自動車専用道路の休憩施設も含まれるため、国内の「道の駅」との単純な比較はできませんが、これらを考慮しても参考となる事例は多くありました。

3.欧米の沿道休憩施設と日本の「道の駅」の違い
 日本の「道の駅」や国内の高速道路のSA・PAの整備事例と比較して、欧米の沿道休憩施設の特徴的な違いを表-1に整理しています。以下、参考となる事項の一部について述べます。

表-1 海外の沿道休憩施設の整備事例からみた計画・設計上の特徴

 

コンセプト •    コンセプトが明確で、計画や設計にしっかり反映されている。

利用対象として観光客とトラックが強く意識され、特に建物の意匠やランドスケープは、立地する土地の地域性や周辺環境の特徴を伝えることに重点がおかれている。傑出した特長が無い場合は、建物など施設そのものがランドマークとしての役割を果たす様に計画されている。

•    施設内の各所で利用者に体験してもらいたいことが、一連のシナリオで整理されている。そのため、文章で表現されたコンセプトを読めば、利用場面を具体的にイメージでき、施設や運営などに関する考え方の拠り所になっている。

立地環境 •   自然地域においては、地形の改変を最小限に抑えるために不定形な敷地形状を採用している。

•   敷地内に高低差が生じる場合は、高低差を活かしたランドスケープが計画されており、樹林地に整備された施設は、既存樹木が巧みに取り入れられている

•   園地に整備された歩経路が、周辺に整備されている自然散策路と接続しているものもあり、景観的な面だけでなく利用の面でも周辺自然が積極的に活用されている

駐車場 •   小型車やバスの駐車場と、トラックの駐車場は分離して整備されている。施設の手前で動線を分離し、異なるタイプの車が敷地内で交錯することが無いように整備されているものもある。このような施設では、一般車とトラックの駐車場の間に建物が配置され、すべての利用者が建物へアクセスしやすいようになっている。

•   SA・PAであっても小型車用の駐車場は、駐車場内を周回して空いている駐車桝を探しやすいように整備されているものが多いが、駐車できる台数は国内と比べて少ない。

•   防犯性を高めるために駐車場に対する視認性が確保できるように配慮されている。そのため、大型車用の駐車桝は手前の視界を遮らない奥側に配置され、植栽等も樹冠下の見通しが良い高木が植えられている。

歩道 •   歩行者の動線に沿って配置されており、歩行者が車路を横断する回数が少なくなるように工夫されている。

•   車路を横断しなくてはならない箇所には横断歩道を設置するなど、歩行者にとっての安全性や安心感を高めると共に、ドライバーにとっては特に注意を払うべき場所がわかりやすいようになっている。

緑地・園地 •   海外の殆どの沿道休憩施設ではピクニックエリアが整備されている。エリアにはピクニックテーブル、シェルター、風よけ等が整備されており、屋外で快適に休憩するための環境に配慮されている。

•   園地の外周部には低木等の植え込みが無く、歩いて入りやすいようになっている。高木の植栽が多く、樹冠の下の見通しが確保されている。

•   乾燥地域においては潅水などのメンテナンスが低い芝を採用することで、水の利用を減らす配慮がなされている。

休憩所 •   海外の沿道休憩施設には、建物内部で静かに休憩できる空間が確保されている。外部の喧騒から逃れられるように、建物内における休憩室の配置は、駐車場からの出入口から離れた、あるいは分断された場所に配されている。

•   外部に対する開放感が高く、周辺環境を積極的に建物内に取り込もうとしている休憩所もある。

サイン •   英語圏では国際標準のピクトグラム等はあまり使わず、文字表記が多い。
周辺への眺望 •   沿道休憩施設は、周辺への景観眺望に配慮して整備されている。周囲への眺望に優れた視点場を設けたり、景観眺望を遮る障害物を設けないようにしている。

•   建物内においても、周辺景観への眺望を内部に取り入れるように配慮されている。

バリアフリー •   身体障がい者用の駐車場は、我が国同様建物のそばに設置されている。車を降りてからの歩行者動線において、階段やスロープなどでアクセスする施設は殆ど見られない。

•   バリアフリーの歩道は、建物だけでなく、ピクニックエリア、ペットエリアなどへのアクセスにも導入されている。

環境対応 •   施設整備に使用する材料は、地域内で調達できる天然素材や、地域でリサイクルされた資材の利用に配慮されている。

•   また、エネルギー使用量の削減にも配慮されている場合がある。

防犯 •   犯罪に利用されるような死角が生じないように、敷地内のレイアウトは視認性が確保されるように配慮されている。
自動販売機エリア •   自動販売機の設置台数は最大でも数台程度と少数に制限されている。
建物全般 •   立地環境の地形地物を活かし、景観の調和を図るなど、立地特性を活かすように計画されている。

•   建物外観の見せ方や建物内部から周辺眺望の見せ方が、コンセプトの段階で位置づけられており、敷地造成がそのコンセプトに沿って行われている。

•   多方面からのアプローチに配慮されており、利用者のニーズに合わせた諸室配置になっている。

•   調査の段階で周辺地域の建物様式や建築資材が把握されており、地域文化の発信や、地域資源の循環の視点から建築計画に活用されている。

 

 

 

 

 

 例えば、初期段階の計画手法の違いとして、立地環境設計やコンセプトでは、「立地する土地の地域性や環境の特徴を伝える」ことや、「最小限の地形改変」、「地形を積極的に取り込んだ設計」など、その土地の生かし方の工夫などが確認できました(写真-3,4)。このことは、国内の「道の駅」の整備において、一度用地を平らに整地して、樹木類もすべて伐木後に、新たに植栽している事例が多いことと比較して大きな違いです。

写真-3 Straight River Rest Area(写真:AECCAFE8))

(高低差のある地形や後背の樹林地を活用することを前提に、敷地造成が計画されている)

写真-4 Strømbu Rest Area(写真:archdaily11)) (隣接する水辺と樹林地の活用を前提に敷地造成や 歩行者動線が計画されている)

 また、各施設の設計での大きな違いは、まず「徹底した歩車分離と歩行者保護」(写真-5)、が挙げられます。これに比べ日本では、敷地内の駐車マス数の最大化と管理しやすい設計が優先され、駐車場設計の基準類にも歩行者保護は十分示されておらず、あまり重視されていません。また、欧米では一般利用と物流利用を完全に分けていることも日本との大きな違いで、駐車エリアの区分けだけでなく、利用者導線も分けて計画・設計されているのが一般的です(写真-6)。

写真-5 一般と物流車両を分けている米国の駐車場(Philip S. Raine Roadside : Google )

写真-6 一見効率の良さそうな緑や交通島のない一面の大きな駐車場は、うるおいや魅力のない空間になるだけでなく、車の走行速度上昇や歩行者の乱横断により安全性が低下し、事故の危険も…。

次に建築分野における特徴的な違いとして、「内部の休憩エリアにおける外部への開放性」や、「周辺景観の内部空間への取り込み」(写真-7)、「周囲への眺望に優れた視点場の設置」(写真-8)、など、欧米では周辺景観の生かし方や施設内部と外部をシームレスにする考えや技術が優れています。また、施設全体として「地域内で調達できる地場材の活用」(写真-9)、「地域文化の発信や地域資源の循環の視点からの建築計画」なども日本の「道の駅」との大きな違いでした。

写真-7  Strømbu Rest Area(写真:archdaily11)) (積極的な周辺景観の内部空間への取り込み)

写真-8 Chautauqua Lake Rest Area(US) 周辺景観を生かした米国の休憩施設

 Image Courtesy © Paul Warchol an Matthew Millman 写真-9 Home Ranch Welcome Center(写真:AECCAFE8)) (主要材料として木材を使用、地域の歴史ある樹木を保存活用している例)

他方、治安状況の違いから「防犯性を高めるための配慮」が重要視され、また「ピクニックエリアの設置」(写真-10)などは、気候や屋外での飲食習慣の違いから日本ではあまり考慮されていない事項です。日本では高温多湿で梅雨や台風などもあり、屋外利用には積極的ではありませんが、北米や北欧と気候が似た北海道では特に参考になると考えられます。
今後、感染症対策や外国人の利用など、国内でも利用者ニーズや社会環境、余暇文化の変化によって、防犯対策や屋外の積極的な利用に取り組む「道の駅」も増えてくる可能性があると考えています。

写真-10 Allegany River Rest Area(写真:Google maps) (一般車とトラックの駐車場が分離され、広いピクニックエリアを有する)

その他に、表-1に記載されている項目以外で興味深いのは、米国の一部の州で定められている「120台以上の容量が必要になったら別の休憩施設を設置する」など、整備主体の効率性よりも利用者の使いやすい規模を考慮するなど、利用者の視点を重視していることや、整備主体の都合でサービスの低下が起こらないよう、「廃止のルールが決まっていること」などが挙げられ、日本でも参考になります。また、「自動販売機の台数制限」なども日本にはみられない考え方です。

 

 

4.日本の「道の駅」の今後に向けて

欧米豪の沿道休憩施設の整備事例と国内の「道の駅」の計画・設計事例との比較から、特に、「道の駅」の地域振興効果に大きく期待するあまり、道路ユーザーの立場に立った安全で快適な道路交通環境の提供という視点での計画・設計検討が十分でない事例もあり、このような視点に対する一層の考慮も必要と考えています。
なお、研究の成果については今後、自治体や設計者が使える技術資料として広く公開していくことを予定しています。

 

 

参考文献

1) 国土交通省道路局:「道の駅」の第53回登録について: https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001338.html(2021.3.15取得)

2) 吉田智、松田泰明、笠間聡:「道の駅」計画・設計の現状と課題について、第54回土木計画学研究発表会、2016

3) 松田泰明、大竹まどか、笠間聡:欧米の沿道休憩施設の事例からみた「道の駅」の計画・設計に関する考察、国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所月報2018年9月号
 

 

国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所地域景観チーム 上席研究員 松田 泰明

2004年国土交通省北海道開発局旭川開発建設部道路調査官から
2006年国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所の地域景観ユニット設置に伴い同研究所へ
2019年に地域景観チームに移行し現在に至る。

■主な研究分野:
土木インフラや公共空間を対象に、良好な景観形成による質の向上と観光利活用に関する研究を行っている。

■公職・歴職、及び技術協力
土木学会景観デザイン研究会委員
日本都市計画学会北海道支部委員
国土交通省北海道開発局景観施策アドバイザー
札幌市景観審議会委員及び景観プレアドバイス委員
他に、美瑛町・増毛町の景観アドバイザーなど、自治体の景観まちづくりへの技術協力を行っている
また「道の駅」に関しては、最近では上士幌町や安平町、共和町などの技術アドバイザーのほか、「道の駅」の新設やリニューアルにあたって広く技術相談を受けている。

■国際協力
JICA国際研修:「道の駅による道路沿線開発コース」のコースリーダーを現在まで8年間務め、中央アジアや中米・カリブ地域での「道の駅」による地域開発にも協力している。